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第13話



       13


 意識が帝都に戻ってきた。視線の先ではリグラムが、見下すような笑みを向けてきている。

「……こんなっ! ……惨いっ! あなたいったい何を考えてるの!」

 フィアナが食ってかかった。ユウリ同様にルカの死のシーンを見たのだろう。リグラムを睨む目には強い怒りの色がある。

「そんな怖い顔をするものではないぞ、麗しき女武者よ。ありのままを見せたに過ぎんよ。私は真実という光明で、選択の幅を広げたいだけだ」

「選択?」カノンが怪訝な声色で応じた。

 パチン。リグラムが指を鳴らした。すると純黒の渦が虚空より生じ、だんだんと大きさを増していく。

 数秒が経って、渦は人間が通れるほどの高さとなった。すぐに奥から何かが現れる。

「シャウア!」フィアナが悲痛に叫んだ。ユウリは目を見開く。

 いつものアカデミックガウン姿のシャウアが、渦表面を抜け空中をスライドするように移動してきた。負傷こそない様子だが、四肢は不自然に硬直している。

 ユウリの目の前で停止した。一瞬後に落ち始め、シャウアは地面に身体を投げ出した。

「ファルヴォスを倒した駄賃だ。好きにするといい。なあに、愛しい妹を死に追いやった憎い憎い男だ。煮ようが焼こうが暴虐の末に死んでしまおうが、誰も君を咎めはせんよ」

 リグラムの声が耳に届いた。甘くも優しい悪魔の囁きだ。「ユウリっ!」フィアナの涙声の絶叫が鼓膜を振るわす。

 ユウリは目を閉じた。フィアナと会ってからの場面が次々と脳裏に浮かぶ。フィアナ、ルカ、シャウア、カノン、そしてリグラム。さまざまな人物との出来事を想起し、深く息を吸い込んで、心を決めた。

 すっと目を開く。ユウリは雷槌らいついを振り上げた。リグラムが愉しげに邪悪に破顔する。

「死ぬのはお前だ! リグラム!」

 あらん限りの声を張り上げ、ユウリは叫んだ。全身全霊で雷槌らいついを投擲する。

 リグラムはすっと左手を挙げた。側頭へと飛来する雷槌らいついを難なく受け止める。

「ふん、詰まらんな。好意を無碍にするか」

 憮然とした面持ちでリグラムは吐き捨てた。

「ユウリ!」フィアナの声がした。希望と心からの喜びを感じさせる声だった。

 ユウリはきっとリグラムを見据えた。

黒神蝶の断罪エデン・カノゥネで、ルカは死んだ! だけどそれはただの事故で、運がなかっただけだ! シャウアに責任はない! だからもう俺はシャウアを責めない! 絶対に! ルカは俺に、そんな真似をしてほしいはずがないんだよ!」

「……ユウリ」シャウアが感じ入ったような語調で呟いた。

 ユウリは風扇をリグラムに突きつけた。

「ケイジ先生の件もルカの件も、すべての原因はお前だ! 俺はもうぶれない! これからお前を叩き潰す! それで、みんなで笑って聖都へと帰るんだ!」

 高らかに叫んだ。「ユウリ君!」カノンの感激の声が耳に飛び込んでくる。

 すると左手の風扇が消失した。はっとしたユウリは背中の翼に目をやり、瞠目する。

 翼が輝いていた。今までないほどに煌びやかだった。黄、緑、青と三色の色が、ゆったりと絶え間なく流動している。

「……ほう。これは珍しい」リグラムが感心したように呟いた。すると光の一部が翼から分離し、カノン、フィアナ、シャウアの頭へと入っていった。

「身体が、動く? それに、なんとなくだが力が溢れる感じもする。ユウリ、いったい何をしたんだ?」

 シャウアが不思議そうに尋ねてきた。

「俺も詳しくはわかってない。けど今の俺は、あんな奴に負ける気がしない」

 ユウリはゆっくりと心情を吐露し、「キラーヴォ」詠唱して雷槌らいついを出した。

 ズバチ! ビリリ! 雷槌らいついに時折走るスパークは、以前とは比べものにならないほど強烈だった。

「覚悟しろ! ここがお前の『終わり』だ!」

 大声で宣言し、ユウリは駆け出した。


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