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(何だここは。見覚えがある道だけど……聖都の、病院の近くか?)
ユウリはぼんやりと思考した。意識こそ鮮明だが身体が存在せず、視覚と聴覚のみが機能している状況だった。
時間は夕方と見え、空は青色と薄黄色のグラデーションである。
しばらくして、視界の先のレンガの道に一人の人物が姿を現した。ユウリは目を見開いた。ルカだった。祭服を着ており、可愛らしく鼻歌を歌いつつ歩いている。
するとふうっと、ルカの斜め上に黒色透明の物体が出現。徐々に透明度を減じていき、完全に実体化した。
「なに、あれ……」ルカが不思議そうに呟く一方で、ユウリは絶句する。あまりにも見覚えのある黒の蝶だった。
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ユウリが思考を巡らしていると、黒神蝶がぴたりと静止した。ルカは不思議そうな瞳を黒神蝶に向けた。
次の瞬間、「あっ……」。ルカは小さく声を漏らした。すぐにぱたりとその場に倒れ伏す。
(ルカっ!)ユウリは心の中で悲鳴を上げた。するとすうっと、意思に反してユウリの視界が前に進み、ルカの顔に固定された。
ルカの両眼は、異様なまでに大きく見開かれていた。あどけない顔は、死の瞬間に恐ろしい思いをしたのか恐怖と苦痛に歪んでいる。神という理解を超えた存在が頭に高負荷をかけたようで、眼と口と耳から血がたらりと流れ落ちる。
(やめろっ! やめてくれっ!)ユウリは懇願した。頭がおかしくなりそうだった。しかし目をそらすことすら叶わず、ユウリはルカの苦悶の面持ちを見続けた。
「ふむ、実に愉しい遊戯だが、いつまでも続けているわけにも行くまい」
リグラムの余裕を滲ませた声がどこかから響いた。するとユウリの視界は、再び白に塗り潰された。