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その後、ユウリとフィアナは助けた女の子を教員に預け、学校を出た。
残敵を探して、二人は大聖堂の前まで来た。巨大な石造りの建造物の前の道に
カノンの背後には、十人近くの男女が立っていた。白色の祭服姿の者に混じり、士官学校の生徒もいる。
カノンは右足を前に出し、左腰の辺りに黒黄刀を据えている。眼差しは鋭く、普段のお茶目さは微塵もなかった。
次の瞬間、カノンは
ほぼ同時、
流麗な抜刀術に周囲から歓声が上がった。中には拍手する者もいる。
カノンはぺこぺこと、小動物じみた軽快な挙動で何度もお辞儀をしている。
「カノン!」ユウリが呼ぶと、カノンは動きを止めた。花咲くような笑顔をユウリに向けてくる。
「ユウリ君! どうですか! 私、完・全・勝・利です! 見事な居合い切りだったでしょう! 褒めて褒めて!」
無邪気な台詞にユウリは苦い思いを抱く。
「戦いっぷりは完璧だったよ。さすがだと思う。けど、これだけ味方がいるのになんで一人で戦ってたんだ?」
「言わずもがなですユウリ君。自己研鑽のためですよ。普通の
ユウリの詰問にもカノンのにこにこ顔は崩れない。
「わざわざ危険な橋を渡る必要はないだろ。全員でかかれば瞬殺できるんだからさ」
「ん? でもでもユウリ君。
丸い顎に人差し指を添え、カノンはこてんと首を傾けた。きょとんとした面持ちでユウリを見つめている。
「……そうだな、ごもっともだ。なんかごめん」ユウリはしめやかに謝った。場の雰囲気が微妙な感じになる。
すると「メイサ・アイシスだ。重要な連絡があるから傾聴するように」どこからともなく女の子の可愛らしい声が響き始めた。
「私たち侵攻部隊は
朗々とした声音でメイサは状況を述べた。予想外の状況に眉を顰めつつ、ユウリは続きに耳を傾ける。
「読み通りルミラリアも攻撃を受けたか。まあ、ほとんど打ち倒せたようで何よりだ。苦労して、
いつも通りの不遜な物言いに、ユウリは苦笑する。
「だがまだ事態は収束していないんだよ。エデリアの帝都も今まさに襲撃を受けている。戦える者は直ちに救援に赴くように。私たちも、障壁が除け次第向かう。ただ申し訳ないが、いつになるかの見通しは立たない。以上。健闘を祈る」
メイサの説明が終わった。すぐに辺りがざわつき始める。
「……そんな、帝都も襲われているだなんて。早く向かいましょう、ユウリ!」
焦った調子でフィアナが言い、ユウリとカノンは小さく頷いた。