12
ファルヴォスとの死闘の後、ユウリとフィアナは法皇庁に赴いた。入り口の門のところで打合を終えたメイサたち先生と出会い、事情を説明した。
メイサは一瞬驚いた顔を見せたが、即座に関係各所に連絡し、自らは士官学校に戻り事後処理を行った。
報告を終えた二人は、その足で聖都の病院へと向かい始めた。フィアナは力の酷使、ユウリは頭部への痛打により、メイサから受診を強制されていた。
レンガの敷き詰められた道を、ユウリはフィアナと隣り合って歩き続ける。夕暮れが迫る空は水色と橙色のグラデーションで、道の両脇に立ち並ぶ広葉樹を優しく照らし続けている。
「そっか、シャウアにはそんなコンプレックスがあったのね。生意気で自信家で、細かいあれこれは気にせずに我が道を行く子だと思ってた。だけどしっかり悩みは抱えていた。付き合いが長いのに、私は気づけていなかったのね」
自省するような静かな口振りで、フィアナは真情を吐露した。横顔は穏やかだが、どこか沈んだような趣もあった。
少し迷ったが、ユウリはシャウアが
「勉学面は超一流だけど、精神面はまだ子供だ。十六の俺が偉そうな口を利くなって話ではあるけど、紛れもない事実ではある。危なっかしいところがあるから、しっかり見てやらないといけないよな」
ユウリは慎重に言葉を選び、努めて冷静に考えを述べた。小さく風が吹き、街路樹の葉がさやさやと音を立てる。
「うん、重々承知してるわ。幼なじみとして、年上として、私はあの子をしっかりサポート──って。何かしら。あそこ。誰か、倒れて……」
フィアナは訝しげに眉を顰めた。ユウリもフィアナの視線の先に目を向ける。
女の子が、身体を横向きにして横たわっていた。薄青の肌着、その上に纏う白色の法衣。頭には白と金が入り交じった被り物があり──。
血の気が引いた。「ルカッ!!!」ユウリは絶叫し、全力で地を蹴った。転びかけるも持ち直し、女の子に走り寄る。
やはりルカだった。恐慌状態のユウリはしゃがみ込み、全身を注視する。
身体には傷一つなかった。ユウリは一瞬、安堵するも、顔に視線を移して戦慄する。
ルカの両眼は恐ろしいまでに見開かれていた。何かとてつもなく恐ろしいものを体験してしまったかのように。
ユウリはめまいを起こしながらも、ルカの口元に手を当てた。息の流れを感じない。呼吸を、していない。信じがたい事実にユウリは呆然とする。
「ユウリッ! 何を放心しているの! 早く病院に!」
悲鳴のようなフィアナの声に、ユウリは我に返った。ルカを抱きかかえて疾走を始める。道行く人々が心配そうな視線を送ってくる。
(くそ! くそ、くそ、くそ! 何なんだ! 何が起きてんだ! いった何がどうなってルカが死にかけで──。どうなって──何なんだよこれ!)
ユウリはしゃにむに病院へと走っていった。思考は一向に纏まらない。腕の中のルカは身じろぎ一つせず、不吉な予感は高まる一方だった。