5
「全員、ただちに武装しろ! あいつは敵だ! それもとてつもなく強いぞ!」
ユウリが叫ぶやいなや、教室中に詠唱の声が響き始めた。数秒経たずに皆、
ユウリも戦闘準備を済ませて、ファルヴォスを見据えた。
するとその周囲に黒炎が渦巻き始め、頭の前で収束。(来る!)ユウリが警戒を強めていると、ファルヴォスから黒炎が放たれた。
(速──)ユウリが思考した瞬間、黒炎は校舎に到達。壁を突き破り、辺りにすさまじい熱気をまき散らした。
ユウリは驚愕とともに、炎の通った跡を見た。人間の頭ほどの大きさの円が、完全に校舎を貫通している。
「見知ッタ顔モイルヨウダガ、貴様ラニ改メテ告ゲル。我ハ、ファルヴォス。『魔竜レヴィア』ヲ崇メル者ニシテ
ファルヴォスは淡々と言葉を並べた。距離は遠いのだが声は良く通り、相変わらず声色には意思が感じられず不気味だった。
「『はい喜んで』とでも答えると思うか!」
ユウリは言葉を叩きつけると、翼を羽ばたかせて教室を飛び出した。
生じた雷は一瞬でファルヴォスに到達。だがゴウッ! 突如、黒炎がファルヴォスの体表面を吹き荒れ、雷を防いだ。
(そんな馬鹿な! 光の速度の攻撃を防ぐだなんて、どんな反射神経をしてやがんだよ!)
ユウリが驚嘆していると、人の姿が視界に入った。フィアナだった。展開した蝶翼を使い、ユウリの近くに留まっている。
「メイサ先生はどこかしら? 情けないけど助力を願いたいわね」厳しい表情でファルヴォスを睨みつつ、フィアナが端的に言った。
「先生は今、打合のために法皇庁に行っている。他の先生もみんな引き連れて、だ。だからすぐには力は借りられない。俺たちだけでどうにかするしかないな」
決意を込めてユウリが応じると、「わかった」とフィアナはさらに表情を固くした。
やがて何人もの生徒がユウリたちの近くに来た。人数はざっと五十人。いつになく真面目な顔をしたカノンの姿もあった。皆、油断なくファルヴォスに視線を向けている。
「我ガ神ノ慈悲ヲ無ニスルカ。詮無キ抵抗ノ末ニ待ツハ苦痛ノ死ダト言ウノニ。救イヨウノナイ愚者ドモニハ、相応ノ報イガ相応シイ」
無機質な声を発すると、ファルヴォスはすうっと両手を腰の横に構えた。