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「こ、この学校の絶対的エースのわたしが、超初心者のビギビギのビギナーにこうもこてんぱんにされるとは。やってくれるじゃないですか転校生。プ、プライドがぱきっとへし折られちゃいましたよ」
カノンが目を見開き驚嘆の声を上げた。
交換留学二日目の昼休み、フィアナは椅子に座ってカノンと対峙していた。二人の間にある机には、鳥を象った駒がたくさん置いてある盤が見られた。ルミラリアで親しまれている、鳥を象った駒を用いて行うボードゲームである。
周囲にはユウリを含めて、二十人近い生徒がいた。その多くは男で、興味深げな視線を盤上に向けている。
「ふふん、この手のゲームはエデリアにもあるのよ。そして私の戦績は百六十二勝三敗。つまりほぼ敵なしなのよね。だから私にもプライドがある。カノンさんがどの程度の腕かはよく知らないけど、絶対に負けるわけにはいかないの。あと私は転校生ではないわ」
背筋を伸ばした姿勢のフィアナはきっぱりと告げた。いつもの自信に満ちた眼差しをカノンに向けている。
するとカノンのわななきが止まった。潤んだ瞳できっとフィアナをにらみ返し、可憐な朱色の唇を開く。
「でも、でもです! わたしはプライドの高さでもこの学校のエースなのです! だから再戦! ひたすら再戦! わたしが勝つまで再戦です!」
びしり! カノンは華奢な右手を水平に掲げた。伸ばしきった人差し指は、フィアナの鼻のわずか手前に位置している。
(まったく、この学校の童女キャラはどうしてこうもくせ者ばっかなんだよ?)
ユウリは嘆息する。
「性格が残念な、童女にしか見えない美少女」男子生徒の間でのカノンの評価だった。ただ本人は噂には無頓着なほうで、外見だけは称賛されている事実も気づいていない様子である。
「見てて下さい、ユウリ君! その麗しい両眼をぐっと見開いて! わたしはあなたの愛の力で、転校生フィアナ・マリアーノという最高峰を見事、撃破して見せますゆえ!」
「……お、おう。まあそこそこに頑張ってくれ。あとフィアナは転校生ではないな」
カノンの決意に満ちた宣言に、ユウリはおずおずと返答した。
しかしカノンは、眩しいようなものを見る目を止めない。他の生徒からの好奇の目を感じ、ユウリは気恥ずかしさから小さく俯いた。
カーン、カーン。時計塔の中段にある鐘が鳴り響いた。昼休み終了の合図だった。
「ああもう! 鐘の音がわたしの行く道の邪魔をする! 創造神ルミラルよ! あなたには慈悲の心はないのですか!」
何やら一人で叫んでいるカノンを置いて、ユウリたちは皆、自席に戻っていった。