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「メイサ先生は挙げなかったけど、
隣を歩くシャウアが不満を漏らした。口を引き結んだ難しい面持ちをしている。
五歩ほど前方にはフィアナとルカの姿があり、リラックスした表情で会話している。
「それにしても、『人型
ユウリは素朴な疑問を口にした。
「さすがの俺もわからねえよ。なにせ、人型
どこか得意げな返答が来た。(というか、なんでこいつは俺に対してずっとタメ口なんだ?)
考えを巡らしたユウリは、ぴたりと歩みを止めた。フィアナとルカが気づかずに歩き続ける一方で、シャウアは立ち止まった。「どうしたよユウリ」と呟き、不思議そうな視線を向けてきている。
「シャウアって、あれだよな。フィアナが好きなんだよな? 見てりゃもうバレバレなんだけどな」
潜めた声でさらりと告げた。シャウアは大きく目を見開き、わずかに遅れて焦ったような面持ちになる。
「は? いやいやいやいや、い、意味わからんっての。俺が、フィアナを、好きだって? どどどどういう発想をしたらそういう結論に至るんだよ」
シャウアの返答は早口だが小声だった。右手を胸の前でぶんぶんと横に振り否定を示しているが、本心は顔に書いてあった。
「ま、まあ顔はな。多少かわいらしいのは認めてやらないでもないけどよ。あと性格も悪くはないな。ぱっと見、きついようでいて面倒見はよくて優しいしな。
あと努力家でもある。でもそれだけだよそれだけ。他の取り柄は皆無だ。てんでダメだ。な、わかったか。ってかわかれ、わかってくれ」
(容姿も性格もべた褒めじゃないかよ。これでごまかせてるつもりなのか? 神童と言っても内面はまだまだ子供だな)
クールな思考は口には出さず、ユウリはさらに続ける。
「まあそういうことにしておこう。それと、良いところは他にもあるだろ。仲間を守るためなら、強敵にも臆せずに立ち向かうところとかな。男だ女だ言うのは主義じゃあないけど、あれだけ勇気のある女の子は俺は他に知らないよ」
ユウリが実感を込めて告げると、シャウアがすうっと真顔になった。
「確かにそうだよ。フィアナは強いし勇敢だ。一方俺は、口が達者なだけで戦闘じゃあクソの役にも立たない。ただのお荷物野郎だ」
言葉を切ったシャウアは、唇を噛んだ。苦しげで、深い苦悩を感じさせる声色だった。
怪訝に思ったユウリは、シャウアの目を見つめた。
「俺はそんなことを言いたいわけじゃあないんだけど。何を急に自分を責め始めてるんだ?」
ユウリの静かな問い掛けに、シャウアは一呼吸置いて口を開いた。
「エデリアに住む者はみんな、神蝶エデンの恩恵を受けている。だけどそれは平等じゃなく、背中に翼を生み出せる者は約半分なんだよ。そんで俺は残りの半分、俗に言う『
反応に困るユウリが黙り込む一方で、愁いを帯びた佇まいのシャウアはさらに続ける。
「それだけお強いユウリ様にはわかんねえだろうな。女に守ってもらうことの情けなさ、無念さなんてものはよ。
「いや、そんな風に卑屈になるなよ。シャウアはシャウアで、別の方法で色んな人の役に立ってるだろ」
ユウリは必死に説得するが、シャウアの面持ちは浮かないままだった。
「わからんでもない主張だが、俺はそれだけじゃあ満たされねえんだ。絶大な武力を振るって、愛する人を身を挺して守る。男に生まれたからには、誰もが憧れる生き方だろ」
ユウリが返答に窮していると、シャウアは突然、歯を見せて笑った。何かを企んでいるような、野心を感じさせる笑みだった。
「だがしかーし! 俺でも戦闘に貢献できる方法の目途が付いた! 付いて、しまったんだ! まだ未完成も未完成で、実用段階じゃあまったくないがよ。でも見てな! ぜってー完成させて、フィアナもユウリも死ぬほど驚かせてやんぜ!」
びしりとユウリを指差して、シャウアは自信たっぷりに言い放った。だいぶ先に進んでいたフィアナたちが不思議そうな顔で振り返る。
(「方法」とやらが何かはわからないけど、今のシャウアには危なっかしさを感じる。……本当に大丈夫か?)
不安でいっぱいのユウリだったが、それ以上の問答は止めておいた。シャウアの悩みはあまりにも共感ができるものだった。