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ユウリは覚醒した。はっとして周囲を見回す。
前後左右、あらゆる方向に人がいた。人数はざっと百人弱。ほとんどは男だが女も交じっており、多くの者が深刻な雰囲気で会話を交わしている。
年は様々で、ユウリと同年代の人もいれば初老と思しき者もいた。皆、背中には翼が見られ、メイサの言の通り蝶翼らしきものも見受けられた。
次にユウリは、群衆の向こうに目をやった。百ミルトほど先から水面が続いており、その先の島には城があった。湖の周りは森林で、そこはかとなく暗い雰囲気である。
頭上には星々が輝いており、時間は夜だと予想がついた。
「ユウリ!」澄んだ声が耳に届き、ユウリは振り返った。
フィアナがいた。切羽詰まった面持ちをしている。その後ろにはメイサ、シャウア、ルカが控えていた。
「フィアナ! 良かった、会えた! でもこれは何なんだ? やたらと人がいるけど、今はどういう状況だ?」
ユウリが困惑を言葉に出すと、厳粛な顔のシャウアが口を開いた。
「
「静まりなさい」穏やかだが有無を言わせない調子の女の声が響いた。シャウアは驚いたように眉を上げ、声の方向に向き直った。ユウリもシャウアに続き、前方斜め上に視線を移す。
不思議な生物がいた。全身、眩いばかりの虹色のグラデーションで、鳥の頭に蝶の触覚を有している。翼は二層構造で、体側が蝶の、その上側が鳥のものだった。
大きさは、接地時の体高がユウリと同程度と予想された。羽ばたきながら滞空しているのだが、翼が動くたびにきらきらと白色の何かが宙を舞っている。
「エル・クリスタ! そんなっ!」
シャウアが唖然とした様で叫んだ。
「どうしたのシャウア」フィアナが焦った調子で応じる。
「
シャウアの口振りにはいつもの理知的な響きはなく、混乱する子供のそれだった。
「
エル・クリスタが勇壮に言い放つと、群衆は一斉に雄々しい声を上げた。
エル・クリスタはふわりと向きを変え、城に向かって鳴いた。神々しくも威圧感のある、轟くような声だった。
すると湖面が揺らめき、大質量の水が宙に浮いた。すぐに水は形を変えて、城のある島とこちら側を繋ぐ橋となった。
「一瞬で水を制御して、それもこんな大きな橋を──! どれだけ強大な力なのよ!」
フィアナの声色は驚嘆しきったものだった。
「来たな」メイサが鋭く呟いた。ユウリは目を凝らして城のあたりを見つめる。
透き通った水の橋の中央に、黒い塊が見え始めた。徐々にそれは大きさを増し、騒々しい音まで聞こえ始めた。
世界の終わりもかくやといった光景に、ユウリは息を呑んだ。
「私はルカを見るから、ユウリとフィアナ嬢はシャウアを守りつつ戦うように! エル・クリスタ軍は私たちにとっては幻影のような存在だ! 気に掛ける必要はない! だが二人は生身かつ非戦闘員だ! 決して矢面に立たせるな!」
メイサが堂々たる口調で叫んだ。「はい!」とフィアナが間を開けずに答える。