第一章 神蝶と神鳥、邂逅す
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さわ、さわさわ。一面を埋め尽くす白く細い草のようなものが、風を受けて微かな音を立てた。
少女ルカ・ヴェルメーレンは胸の前で組んだ両手を解き、おもむろに瞼を開けた。遙か天上では無数の星が清らかな輝きを見せている。
途方もなく巨大な鳥、神鳥ルミラルは、今日もルカたちを乗せて宇宙をいずこかへ飛翔し続けている。行き先は文字通り神のみぞ知る。誰一人としてわかっていなかった。
ルカはこの神秘の地にて祈りを捧げるたびに、人の生の儚さと宇宙が刻んだ悠久の時をいやおうなしに感じるのだった。
「……あれ?」
ルカは小さく独りごちた。視線の先、煌めく星々の一つが、ふいに黒点に塗り潰された。否、何かがルカと星との間を、一直線に飛んできているのだ。
黒点は次第に大きさを増していき、その姿が判別できるようになった。
「
やがて、ズウン! 重々しい音を立てて、ルカの背後に何かが降り立った。ルカは疾走し続けるも、十歩ほどいって足がもつれて転倒する。
「GYAAAAAAOOOOOO!」
轟くような鳴き声がルカの鼓膜を振るわした。ルカは起立も叶わず、転けたまま振り返った。
それは厳めしい頭部と二枚の巨大な翼を有しており、強靱な二本足で立っていた。恐ろしいほどの巨体でルカの背丈の二倍ほどあった。
全身を覆う鱗は、宇宙の闇よりもなお暗い黒である。二つの眼には瞳がなく、それの持つ禍々しい雰囲気を助長している。
神鳥ルミラルの身体表面上に住む全生物の敵、
「
勇壮な声音の男の声がした。ルカは希望を湛えて、声の主に首を向ける。
上下とも灰色の、シックな長袖制服を身に纏う少年だった。
身長は平均的で筋骨隆々という身体つきではないが、太めの眉と大きな瞳からは強い意志が感じ取れた。真っ黒な髪は首筋にかかるほどの長さである。
(えへへ。ありがとう、お兄ちゃん)ルカが感謝のあまり泣きそうになっていると、少年を純白の光が包み始め、やがて収まった。詠唱の結果の変身である。ルカは敬愛を込めて少年を注視する。
依然として少年は制服姿だった。だが異変は背後に起きていた。
少年の背には、無数の孔雀の羽根で構成される翼が四枚生じていた。色は黄、緑、青のグラデーションで、半透明である。
上側二本の先端が身長の二倍弱の高さであり、
「
長さはユウリの腕ぐらいで、頭の部分は握り拳五個分ほどの体積だった。表面の全てに、幾何学模様の精緻な装飾が施されている。バチ、ビリリと断続的に音がしており、黄白色の光が時折周囲を走っていた。