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神神鳥蝶悪竜神滅
雪銀海仁
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年09月14日
公開日
11,357文字
連載中
 無限の宇宙空間をどこかへと飛翔し続ける神鳥ルミラル。その上の世界「ルミラリア」には千人弱の人々が生活していた。宇宙空間には悪竜《ヴァルゴン》がおり、時折ルミラルに降りてくるため、人々は神鳥聖装《セクレドフォルゲル》という、様々な鳥をモチーフとした装備に身を包む変身で撃退していた。
 戦い手の駆け出し、16歳のユウリ・ヴェルメーレンは孔雀の神鳥聖装の能力を持っており、雷の槌、風の扇、水の盾という三種の武器を自在に使い活躍をし始めていた。
 ある時、神鳥ルミラルへと、神鳥と同じ大きさの神蝶エデンが飛来する。斥候で降り立ったのはフィアナ・マリアーノという16歳の美少女で……。
 大きな鳥および蝶が唯一神かつ人間の生活の場という、神話的世界を舞台とした能力バトルものです。

1

第一章 神蝶と神鳥、邂逅す


       1


 さわ、さわさわ。一面を埋め尽くす白く細い草のようなものが、風を受けて微かな音を立てた。

 少女ルカ・ヴェルメーレンは胸の前で組んだ両手を解き、おもむろに瞼を開けた。遙か天上では無数の星が清らかな輝きを見せている。

 途方もなく巨大な鳥、神鳥ルミラルは、今日もルカたちを乗せて宇宙をいずこかへ飛翔し続けている。行き先は文字通り神のみぞ知る。誰一人としてわかっていなかった。

 ルカはこの神秘の地にて祈りを捧げるたびに、人の生の儚さと宇宙が刻んだ悠久の時をいやおうなしに感じるのだった。

「……あれ?」

 ルカは小さく独りごちた。視線の先、煌めく星々の一つが、ふいに黒点に塗り潰された。否、何かがルカと星との間を、一直線に飛んできているのだ。

 黒点は次第に大きさを増していき、その姿が判別できるようになった。

悪竜ヴァルゴン!」一瞬にして血の気が引いた。ルカは恐慌状態に陥り、振り返って逃げ始めた。

 やがて、ズウン! 重々しい音を立てて、ルカの背後に何かが降り立った。ルカは疾走し続けるも、十歩ほどいって足がもつれて転倒する。

「GYAAAAAAOOOOOO!」

 轟くような鳴き声がルカの鼓膜を振るわした。ルカは起立も叶わず、転けたまま振り返った。

 それは厳めしい頭部と二枚の巨大な翼を有しており、強靱な二本足で立っていた。恐ろしいほどの巨体でルカの背丈の二倍ほどあった。

 全身を覆う鱗は、宇宙の闇よりもなお暗い黒である。二つの眼には瞳がなく、それの持つ禍々しい雰囲気を助長している。

 神鳥ルミラルの身体表面上に住む全生物の敵、悪竜ヴァルゴンだった。ルカは恐怖のあまり、がちがちと歯を鳴らして震える。だが。

神鳥聖装セクレドフォルゲル!」

 勇壮な声音の男の声がした。ルカは希望を湛えて、声の主に首を向ける。

 上下とも灰色の、シックな長袖制服を身に纏う少年だった。

 身長は平均的で筋骨隆々という身体つきではないが、太めの眉と大きな瞳からは強い意志が感じ取れた。真っ黒な髪は首筋にかかるほどの長さである。

(えへへ。ありがとう、お兄ちゃん)ルカが感謝のあまり泣きそうになっていると、少年を純白の光が包み始め、やがて収まった。詠唱の結果の変身である。ルカは敬愛を込めて少年を注視する。

 依然として少年は制服姿だった。だが異変は背後に起きていた。

 少年の背には、無数の孔雀の羽根で構成される翼が四枚生じていた。色は黄、緑、青のグラデーションで、半透明である。

 上側二本の先端が身長の二倍弱の高さであり、悪竜ヴァルゴンのそれに比べるとそう大きなものではない。だがその翼には、言葉にしがたい神々しさがあった。

キラーヴォ」少年、ユウリ・ヴェルメーレンが小さく呟くと、瞬時に翼が黄に変色し右手に黄金色の槌が生まれた。

 長さはユウリの腕ぐらいで、頭の部分は握り拳五個分ほどの体積だった。表面の全てに、幾何学模様の精緻な装飾が施されている。バチ、ビリリと断続的に音がしており、黄白色の光が時折周囲を走っていた。


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