そうして迎えた卒業式の日。
「直哉ぁ~~~、小生は悲しいですぞ~~~」
卒業式が終わって、一晴は涙をこぼしながら会場を出た俺に言う。
「一晴は大げさなんだよ。学園でのお別れが、今生の別れってわけじゃないんだしさ。どうせまた会えるだろうに」
「そうだけどさ~~~ッ!」と言いながら、鼻をすすりながら一晴は目元をこすった。
一晴は、どうやら華恋と一緒に生きる道を選んだようだ。聞けば、門真さんと同じ会社に就職するらしい。
会社と門真さんの勧めで大学には進学するのだという。
大学生の間はアルバイトという立ち位置らしいが、アイドル活動を続ける華恋を支えるために選んだ道なのだから誇りに思ってほしいが……。
そこまで嘆くなよと思うぐらいに涙をこぼす一晴。
「直哉」
詩乃がゆっくりと近づいてきた。彼女の姿に、俺は懐かしさと少しの寂しさを感じた。
「詩乃じゃないか。決めた道は変わってないか?」
「ええ。図書館司書の資格が在学中に取れる大学へ無事進学できたわ。これから、その資格が取れるように一生懸命頑張るわ」
「……桐生君、月舘さん」
次に現れたのは、なんと神崎雅久だった。
鹿伏兎先生の言うように、坊主頭になっていて、穏やかな雰囲気を強く感じる。
「神崎……」
「あの時はすまなかったと最後に詫びたかったんだ。
許してもらえるとは思っていないが、こうでもしないと私の気がすまないんだ。どうかわかってほしい」
そう言って、神崎は深くお辞儀をするように頭を下げた。
「あぁ、いいさ。お前の気持ち、鹿伏兎先生からも聞いた。
……お前はお前なりに罪悪感をしっかり持っていてくれたんだろう。自分の過ちに苛まれながらもな」
「そうだ。私はこれからも清らかな心で日々を送れるように精進するつもりだ。
私で良ければ、なにか起きたら相談に来てくれてもいい。そのための修行も始めるつもりだ」
「ハハハ……。すごいなお前」
180度人が変わってしまっている。
神崎は一体どういうことをしてきたんだ……?
そんなことを疑問に思ったが、俺たちに一礼した神崎は校門へと向かってしまった。
俺たちは、笑いと涙が入り混じるその光景を見ながら、自然と足が校門へ向かった。
これで俺たちの学園生活は幕を閉じ、これからはそれぞれの未来へと進んでいく。
☆★☆★☆★
卒業式のあと、俺、一晴、美玲は門真さんに呼ばれ、ステラノヴァを管理している会社に来ていた。
「桐生直哉君、月舘美玲さん、そして北条一晴君。学園卒業おめでとう。これで君たちは晴れて社会への第一歩を踏み出すことになる」
「ありがとうございます」
俺たちは代表の言葉に感謝を返した。
「私としてはこの活動が終わったとしても困らないように、進学してほしいと願っていたが、君たちは私の望みを叶えてくれた。
大学に通いながらも、アイドル活動を続けてほしい。そして、それを支える男たちにはぜひ彼女たちを頼む」
「わかりました」
……と答えたものの、心の中にはまだ漠然とした不安が残っていた。
美玲たちを支えるマネージャーとしてやっていけるのだろうか――だが、もう引き返せない。
「特に北条君には、少し厳し目に接することもあるが、わかってくれたまえよ」
「覚悟の上です。彼女のことは、俺が全力で守ります。
どんな壁が立ちはだかっても、それが華恋さんの夢を支えるためなら、俺は絶対に負けません」
……と、強く言い切る一晴の瞳には、確固たる決意が宿っていた。
「うむ。頼んだぞ、北条君。そして、門真君」
代表は門真さんを呼んだ。
「なんでしょうか」
「君には先輩としてこの二人を導いてやってくれ。頼んだぞ」
「もちろんです」
こうして、俺と一晴はステラノヴァのメンバー専属マネジャーとして、新たな道を歩み始めた。
夢と希望、そして少しの不安を抱えながら。俺たちの未来は、まだ始まったばかりなのだから。