――このゲーム世界に転生して一年が経った。
三学期に生徒会選挙があったが、今年は信任選挙という形になり、美玲たち生徒会メンバーは信任される形で続投が決定した。
美玲は生徒会長であり、俺は暫定副会長だったが正式に副会長として就任することになった。
三年となり、クラスが別々だった美玲と俺は、一晴も含め、一緒のクラスになったのだ。
最後の一年を一緒に過ごせることを美玲はすごく喜んでいた。
そして、美玲は俺と付き合うことになってから、ますます魅力的な体つきになったように感じる。
このまま何事もなく、一年を過ごせればいいと思ったが……。
俺や美玲、一晴が将来のことについて考えることがやってきたことを、進路希望調査票という一枚の紙切れで知らされることになる。
放課後。俺は詩乃の
「進路、か……」
ぼんやり呟いた時、俺の胸には漠然とした不安が押し寄せた。
高校生活も終わりに近づき、これからの未来が確実に目の前に迫っている。
それでも、自分が本当に進むべき道はまだ見えてこない。
美玲の未来も、俺の未来も、このまま一緒でいられるのだろうか――そんな思いが頭をよぎる。
「美玲はどうしたい?」
「まだ考えてない」
俺の問いに美玲は答える。
「詩乃はどうするの」
「私は、普通に大学に行く。でも図書館司書の資格を在学中に取れる場所にしたいと思ってる」
詩乃はこの一年で視力が落ちて、度の強いメガネが欠かせなくなったようだ。
ちなみに美玲はメタルフレームメガネを外して裸眼で生活している。
「そんなに好きなんだ。図書室という空間が」
「ええ。美玲がアイドルという居場所を大事にしているように、私は本に囲まれている居場所を大事にしたいなって思って」
詩乃と美玲は、生徒会を通じて自然に名前で呼び合うほどに仲良くなっていた。
それは俺も同じで、美玲がそう呼ぶのなら直哉も呼んでいいよとは詩乃は言ってくれた。
「あー! もう、わからん!」
一晴は苛立ち紛れに頭をぐしゃぐしゃとかきむしっている。
「とりあえず、大学進学って書いておいたらどう?」
「大学で何か見つかるかもしれないってこと?」
「そういうこと。一晴のご両親も、きっとそれを期待してるんじゃないかしら」
頭を抱えて悩み続ける一晴に詩乃が提案する。
「んじゃあ……そう書くかぁ」
ため息を吐いてから、彼は調査票に指を走らせた。
「俺もそうするか……。でも、できれば美玲と同じ大学がいいけどな」
「それは私も同じよ。直哉と離れるなんて、考えたくもないわ」
「美玲……」
美玲の柔らかく温かな表情を見ていると、自然と顔がほろこんでくる。
「……はぁ。いいよなぁ、近くに恋人がいる直哉はよぉ」
「んっ……! あぁ、悪ぃ、つい」
一晴と華恋の仲は順調だが、またしても彼の
「いや、いいよ。俺のことはあんまり気にせんでくれ」
俺たちは第1希望に『大学進学』とだけ書き記した。
あとで聞いた話だが、美玲は第2希望に、『学園で出会った恋人と卒業後、一年同棲して、そのまま結婚する』と書いたそうだ。
あまりにも可愛らしい女の子の願望だったせいで、聞いた瞬間、つい笑ってしまい、詩乃に『笑っちゃダメでしょ』と鋭い目で睨まれた。
☆★☆★☆★
進路希望調査票を提出した日の夜。
ふと気になって、颯真が残していった不思議な手帳を手に取る。増えていったはずのページは、未来を予測する一つのページで止まっていた。
そこには、10年後の俺の未来が描かれていた。俺は美玲と結婚し、転生前よりも幸せな日々を送っているらしい。
手帳の未来予測は、俺が転生前に生きた年齢までしか届かないらしい。だから、10年後の未来までしか描かれていないんだ。
それでも、転生前の人生より良いものなら、それで十分だろう。
最後のページには、こう書かれていた。
『我が救世主が、より良い未来を迎えられることを願っているよ。暁颯真』
やっぱり、わかっていたんだなこいつ。
俺がこのゲーム世界の運命をひっくり返し、想定していない結末にたどり着き、その先の未来をもすべて書き換えてしまうことも。
思い出した懐中時計を取り出すと、もう動いていなかった。
巻き戻すべきことなど、もう何もないと言っているのかもしれない。
俺はその懐中時計を机の上にそっと置き、静かに眠りについた。