美玲との関係が深まり、順風満帆な学園生活を満喫している俺。
そんな中、俺の最高の友である、北条一晴は最近元気がなさそうだ。
「どうした、一晴」
一晴は俺の呼びかけで、ふと顔を上げたが、目には力がなく、肩は落ちていた。
普段の快活な姿とは別人のように見えた。
「最近、華恋に会えなくてさ……。連絡は取り合ってるけど、なんか遠く感じるんだよな。
昔みたいに普通に会えた頃が懐かしいっていうか……」
「あ……あぁ……そっちか……」
一晴は推しのアイドルであるカレンこと碧井華恋と恋人関係になった。
連絡を取り合ったりしているそうだが、本人に会えないのが堪えているらしい。
「なあ、直哉……俺、情けない話だけど、華恋にどうしても会いたいんだ。お前、なんとか頼めないかな……?」
「んー……どうだろうなあ」
美玲との関係もあって、『ステラノヴァ』との関係性も発展し、門真さんを通して色々融通をしてもらっていることもある。
一晴はそれを知っているからそういうことを言っているのだろうとは推測できる。
「まあ、門真さんや本人に聞いてみるよ。華恋も一晴をさけているつもりはないだろうしな」
「ありがとうな、直哉」
☆★☆★☆★
【 ……というわけなんです 】
その日の夜、門真さんにEchoLinkで一晴の様子を伝えた。
【 そうか。華恋に会って話ができないのがそんなに一晴のメンタルに来ているのか 】
【 なんとかできないでしょうか。友人としてすごく心配なんです 】
【 わかった。次の遠征に一晴も呼ぶことにしよう。当然お前も来るよな、直哉 】
【 もちろんです。美玲のメンタルケアのためにも 】
次の遠征は温泉もある場所らしい。
温泉……か……。
そのライブ会場には、熱気が溢れていた。観客の歓声が響き渡る中、華恋の歌声がステージを包み、一晴はその場に立ち尽くしていた。
彼女の姿を目にした瞬間、一晴の表情が一瞬で変わり、口元がほのかに緩む。
華恋の瞳が観客の中から一晴を捉えると、その瞬間、彼女の声にもひときわ感情が乗ったのが、直哉にも感じられた。
ライブ終了後、華恋は一晴を見つけると、一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに満面の笑みを浮かべた。
一晴も、彼女の姿を見た瞬間、口元が緩んだが、緊張で言葉が詰まっているのが明らかだった。
華恋が一歩近づくと、ようやく一晴は深い息を吐いて、ようやく微笑みを返した。
「大丈夫よね、華恋と一晴」
「一晴には、ようやくここまで来たって感じだよな。あいつ、華恋に会えなくてずっと沈んでたからさ……。
でも、会えたらきっと前に進めるはずだ。俺も心からそう願ってるよ」
美玲は俺の言葉にそう思うと肯定を返した。
☆★☆★☆★
大好きな華恋と同室に入れてもらえた俺、北条一晴。
直哉の一件があって、ずっと推していたカレンと恋人同士になってしまった。
そこからは華恋に夢中になってしまい、一喜一憂する毎日。
華恋に夢中になる前はどうしていたか思い出せないほど、俺は彼女に恋してしまったらしい。
そのせいで、彼女に会えない日々が続くと、本来の調子を出せなくなってしまう。
そのことを直哉に願い出たら、『ステラノヴァ』の遠征ライブにお呼ばれしたということだ。
「ねえ、一晴」
「うん」
「アタシも会って声が聞きたかったの。でもなかなかできなくてさ」
「華恋……」
華恋も同じことを考えていてくれていたらしい。
「だからこうして一晴に会えて嬉しかった」
「……華恋」
俺は華恋を抱きしめていた。
「一晴……」
「いきなりでごめん、華恋。……でももう我慢できなかったんだ」
「……いいよ。一晴ならいくらでも触ってよ」
ああ、やっぱり。推しの華恋は本当に好きだ。
正直、生身の女の子を好きになることなんてないだろうな、って思っていたけど、本気で好きになるってこんな気持ちなんだな。
「華恋……。そのさ……」
「うん……」
「キス……しても……いいよな」
「うん……して……」
俺は初めて華恋の唇に自分の唇を重ねた。ほんの少し触れる程度だった。
それだけのことなのに、より一層華恋を好きになってしまった。
「あぁ……華恋……」
「どうしたの、一晴」
「俺……こんなに好きになっていいのかな……」
彼女は一瞬黙って、微かに頬を赤らめた。それに気付いた俺の胸は高鳴る。
華恋も同じ気持ちなんだ――その確信が、俺の不安を少しだけ和らげてくれた。
「いいんだよ。ナオ君と美玲なんか、もっと進んでるって聞いたよ。リーコと門真さんもって」
「あっ……そ、そうなのか……」
華恋の言葉に戸惑う俺。
「一晴はさ……。アタシとそういう関係になりたい?」
「華恋がいいのなら、俺はそれでもいいと思うけど……」
直哉から聞いたことがある。こういうことは慎重にするものだと。
華恋がそれを望んでいるのなら、俺はそれに答えるべきなんだろうなと……。
「じゃあ……さ……」
「あぁ……」
華恋の目を見つめると、お互いに言葉はもう必要なかった。
俺たちは静かに距離を縮め、その瞬間、時間が止まったかのような感覚に包まれた。
互いの鼓動を感じ合いながら、穏やかで優しい夜がゆっくりと流れていく。
俺たちの心は一つになり、何も言わなくても理解し合える瞬間だった――。