目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第21話

 文化祭も終わり、一段落した俺の学園生活。

 だが、暁颯真のことをはっきりと覚えているヤツはなぜか俺以外いなかった。

 颯真と関わりが深かった倉掛さんも「そう言えば、そんな男の子がいた気がするけど……」と、どこか曖昧に首を傾げる。

 門真さんに至っては「いたような気がするが、どういうやつだったか忘れた」と、あっさりしたものだった。

 そして、手元に残された謎めいた手帳。颯真が消えた後、これだけが彼の存在を証明しているかのようだ。

 俺が何か行動するたびに、ページが静かに増えていく。まるで、未来がどこまでも続いていることをささやくかのように。

 美玲との関係は、今も変わらず続いている。いや、むしろ――今までよりも彼女との時間が濃くなっている気さえする。

 会長と副会長、という立場もあるが、『何よりも、俺たちは恋人同士だ』という事実が大きいのだろう。

 『桐生直哉』という彼女にとっての居場所を得たからか、生徒会長としても、アイドルのミリィとしても彼女は自由に翼を広げ、輝きを放っている


「直哉!」


 いつもの虹架市のライブハウスで行われた定期ライブ&交流会。

 その終わりに、ステージ衣装を纏った美玲が、軽やかに俺の元へ駆け寄ってきた。

 彼女の頬は薄っすらと赤みを帯び、ライブの余韻とともに、彼女の中に熱が残っているようだった。


「美玲」


 彼女が勢いよく飛び込んできた瞬間、その小さな身体をしっかりと受け止めた。

 美玲の鼓動が微かに俺の胸に伝わり、俺たちの距離がこれまでになく近いことを感じさせた。


「ふふ、ほんとに見てるこっちが照れちゃうくらい仲良しだよね」

「ですわね。……そういうカレンも、カズ君とこういう関係はいかがでしょう?」

「りっ、リーコ!?」

「カズ君は本当に好きでいてくれているみたいですし、直哉君とミリィのようなカップルになってみてもいかがでしょう?」

「もうっ! 門真さん、助けてッ!」

「もう遅い。全部、カズに聞かれているぞ」


 カレンは門真さんに助けを求めるが、その場に一晴がいて、俺たちの会話を聞かれてしまったのだ。


「あ、あの……えっと……カレン……さん?」


 一晴が戸惑いながらも、視線をカレンに向ける。


「か……カズ君……その……」


 カレンの頬が薄紅に染まり、言葉を探すように口元を手で覆う。


「……えっと……その……ミリィと直哉みたいに……なってくれませんか……?」


 一晴の声は震えていたが、彼の決意は確かなものだった。


「はい……よろこんで……」


 一晴の言葉にカレンは息を飲み、戸惑いながらも頷いた。


「ハハハッ。これは本当に面白いことになったな!」


 その光景を見守っていた俺は、思わず笑みをこぼす。


「リーコ、どうだ?」


 門真さんが、隣で微笑んでいるリーコに声をかける。


「……ええ、想定外の出来事でしたが、もう少しこの星にいさせていただければ」


 リーコが静かに微笑み、優雅に首を傾けた。


「俺からお前の両親に伝えておこう。安心していい」

「ありがとうございます……!」


 気づけば、ステラノヴァのメンバー全員が、愛する人を見つけてしまったことになる。

 ミリィは俺、カレンは一晴、そしてリーコは門真さんと――。

 このゲームの世界ではありえないような奇跡が、俺の存在を起点に次々と起こっていく。

 カレンやリーコ、そしてステラノヴァのマネジャーまでもが、単なるサブキャラクターだったはずなのに、今では彼女たちの運命までもが変わり、カップルが誕生してしまった。


 ☆★☆★☆★


 少しずつ残暑が消えていき、冬の始まりを感じさせる冷たい風が吹く頃、美玲が俺を自分の家に呼び出した。


「どうしたんだ、美玲。家に呼ぶなんて珍しいじゃないか」


 彼女の表情は、いつもより少し硬く、何かを決意したかのように見えた。


「直哉……最近、なんだか足りないの。あなたがそばにいてくれても……もっと欲しいって思っちゃうの」


 美玲はそう言いながら、俺に視線を絡ませた。


「なんだか……足りない?」


 俺は彼女の顔を覗き込む。彼女の瞳が真剣であることに気づく。


「うん。キスしても、ハグしても……それだけじゃ足りないって感じるの。もっと……もっと直哉が欲しいの」


 彼女の言葉には、ただの欲望ではなく、強い感情のこもった重みがあった。


「美玲……」


 その真剣な表情に、俺も言葉を失っていた。


「お願い……私をもっと抱きしめて。私を、すべてで包み込んでほしいの……」


 彼女の声は、いつもとは違う、少し震えるようなトーンだった。

 美玲は潤んだ瞳で俺を見つめ、そのまま静かに顔を寄せてきた。

 俺は彼女をそっと抱きしめる。その瞬間、彼女の体温が俺の心に直接届くようだった。


 ――キスの一瞬が、まるで永遠のように感じられた。


 彼女の息遣い、肌の温もり、そして何よりも、彼女の心が痛いほど伝わってきた。

 夜が更けるにつれ、部屋の中に静かな安らぎが満ちていき、俺たちは深い絆で結ばれていくような気がした。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?