文化祭関係のミーティングも大詰めを迎え、ついに文化祭までのカウントダウンが始まろうとしていた。
学園中が『ステラノヴァ』が来ることに浮き立っていて、俺たち生徒会の面々も例外ではなかった。
気が気でないのは俺だけではない。颯真も倉掛さんも同じような表情をしていた。
それに対して、副会長の神崎雅久だけが不自然なほどにニヤニヤしている。
文化祭の準備を楽しみにしている学園生たちと同じく、青山さんや小鳥遊さんもその空気に染まっている。
七星さんはニヤついている神崎副会長を冷ややかな目で睨んでいた。
「――今回のミーティングは以上となります。桐生君、暁君、倉掛さん、七星さんはこの場に残ってください」
あれ? 七星さんが? 今までほとんど関与してこなかったはずなのに、なぜ今……?
俺と他の呼ばれたメンバー、颯真、倉掛さん、七星さんは、美玲の指示に従い、生徒会室に残った。
「さて。副会長もいないことですし……と言いたいところですが。
暁君、倉掛さん、すいませんがこのテーブルになにか
美玲は、颯真と倉掛さんに軽く目配せしながら言う。
二人が慎重にテーブルの裏を覗き込むと、倉掛さんが低く呟いた。
「……こういうものかしら」
机に無造作に転がったボールペン。その裏には、見たこともない細長い装置が巧妙に仕込まれていた。
果てはボールペンと同じような装置が巧妙に仕込まれたコンセントまで出てきた。
「やれやれ、ここまで手が込んでるなんて……。こんなもの、高価だったはずよ。三島か神崎かわからないけど、相当な執念を持っているのね……」
倉掛さんは深く息をつきながら、器具を手に取った。
「余程、会長に恨みがあるようですね。これを仕掛けた人っていうのは」
七星さんが言う。……しかし、ここに来て中立的だった七星さんが出てきたのはなんでだ?
その疑問を彼女にぶつけてみた。
「それなんだけど……正直、怪しいと思ったのよ。副会長はもともと反対していたはずなのに、突然態度を変えて予算に口出しし始めた。
しかもライブステージの方に大きく予算を振り分けようなんて、どう考えてもおかしかったのよ。
それで、どうしても気になって……私も少し調べてみようと思ったの」
美玲は冷静に周囲を見渡し、落ち着いた声で続ける。
「そういうことです。七星さんにも協力してもらいました」と美玲が言うと、七星さんは軽く頷いた。
その目は真剣で、これまでの彼女とは少し違う決意が垣間見えた。
「……ということは、美玲の秘密は七星さんも知っているということに?」
「ええ。協力をお願いするためにはしょうがないことだったから」
「驚いたわ……まさか、月舘さんが『ステラノヴァ』の『ミリィ』だったなんて。
そんな大事な秘密、誰にも言ってないから安心して。けど……その上、桐生君と恋人関係だなんて、信じられないほど驚きよ」
美玲はそこまで話したんだ。
「それで、会長は自分の秘密をどうするつもりなの?
その秘密を使って、副会長たちがあなたを生徒会長の座から引きずり下ろそうとしているってことを知って……」
「私の卒業まで隠し通すつもりだったけど、神崎や三島に知られた今となっては、もう時間の猶予はないわ。これ以上は待てない」
七星さんの言葉に美玲はそう返した。
「いいのか、美玲」
「ここまで来てしまったら、仕方ないわよ、直哉。
……そうそう。門真さんにも話は聞いているし、そうするしかないだろうと覚悟を決めているから」
「門真さん……? 誰、それ? ねえ、会長。門真さんって何者なの?」
「私の所属してるグループのマネジャーさん」
「へぇ……。言うなれば、ミリィの保護者って感じかしら」
「そういう解釈で理解してもらえるなら」
美玲の返答に頷く七星さん。
「じゃあ、美玲」
「ステージには制服姿で出るわ。その下に、私の本当の姿の象徴であるステージ衣装を着込んで!
悪意でバラされるぐらいなら、自分から全てを暴いてやるわ!」
強い口調で美玲は言った。
「フフッ。月舘さん、あなた面白い人ね」
「何を言ってるの、倉掛さん? 面白いことを考えたのはあなたでしょ? 逆に利用してやろうなんて、まさにその通りだわ」
付けていたメタルフレームメガネを外して、ニヤリとした表情で倉掛さんに言う美玲。
言われた方もニヤリと笑っている。
「そうとなれば、私も覚悟を決めるしかないわ! たとえ生徒会長の座を失うことになっても……私はこの戦いに臨む!」
美玲は覚悟を決めたようだ。