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第17話

 文化祭まであと何日だろうかと指折り数える方が早くなって来たある日。

 俺は生徒会の文化祭ミーティングの後、颯真と倉掛さんに話があると声をかけた。

 二人は俺の表情に何かを感じたのか、すぐに倉掛さんのである図書室に集まった。


「私たちを呼ぶってことは、月舘さんに関することよね? 彼女との関係がだいぶ進展したのかしら?」

「それもあって……。実は、夏休み中に美玲と付き合うことになったんです」


 ガタッと音を立てて、倉掛さんが驚いた様子で立ち上がった。

 彼女は目を見開き、信じられないという表情を浮かべていた。


「えっ!? 月舘さんと桐生君、恋人同士になったの!?」

「はい」

「そ、そっかぁ……。ちょっと驚いたけど、そういえば最近、月舘さんがよく桐生君を気にしているのを見てたから……。それなら納得ね」


 倉掛さんの言葉に首を傾げる。


「それならなおのこと、桐生君は月舘さんを守ってあげないとね」


 彼女の言葉に首を縦に振る。


「そうです。だからこそ、今この場で二人に相談したかったんです」


 俺はゆっくりとポケットから、神崎雅久が持っていた文化祭を揺るがしかねない秘密が書かれた紙切れのコピーを見せ、二人の前に差し出した。

 二人は紙切れに目を通すと、瞬間、顔を見合わせて息を飲んだ。

 驚愕が一瞬にして広がり、言葉を失って固まってしまった。


「神崎と三島が手を組んでいたのは知っていたけど、ここまで計画的だとは思わなかった……」

「確かに、これは驚きだな、直哉君」

「だろう? 俺もこの計画を知ったときは、衝撃だったよ」


 たとえこの紙切れがフェイクだったとしても、副会長の神崎と元生徒会長の三島が美玲を失脚させようというのは確か。

 二人はその事実を知っているからこそ、驚いているのだろう。


「ライブステージのタイミングに合わせて、神崎が月舘さんの正体を暴露するつもりなのね……。本当に恐ろしい計画だわ」

「三島が月舘さんが『ステラノヴァ』の『ミリィ』だって知ってなければ、こんな危険な計画を実行しようとするはずがない。彼はその事実を利用してるんだ」


 倉掛さんと颯真が交互に言葉を交わす。


「――そうね。だったら、これを逆手に取って、神崎と三島の企みを全校生徒に暴露しちゃいましょうよ」


 倉掛さんはあくどい笑みを浮かべながら、静かに提案した。


「く、倉掛さん!? ちょっとそれはやりすぎなんじゃあ……!?」

「詩乃さん、本当にそれでいいのかい!?」

「あら、そんな二人に慈悲をかける必要なんてないわよ。

 むしろ、そんなことをしたら、あの二人はますますつけあがるだけだわ。……ただ、月舘さんの協力が必要かもしれないけどね」

「どうして美玲が?」

「私が思うプランはこうよ」


 倉掛さんは、消えるボールペンを取り出し、スラスラとレジュメの裏に何かを書き始めた。


「月舘さんには、制服のまま『ステラノヴァ』のステージに立ってもらう。

 そして、自分が『ステラノヴァ』の『ミリィ』だと自ら明かしてもらうのよ。

 そうすれば、神崎と三島が暴露しようとしても、無駄に終わるわ」

「………。相当にリスキーな手段だね……」


 倉掛さんに言う俺。


「ええ、そうかもしれないわね。

 でも、事前に『そうかもしれない』って噂を流しておけば、月舘さんが自分で明かしても、みんな驚かないでしょう。

 そうすれば『やっぱりそうだったんだ』って思うだけよ」

「詩乃さんは、完全に二人の企みを潰す方がいいと思っているんだね」

「そうよ。副会長と元生徒会長の悪巧みなんて、潰してしまうに限るわ。

 だって、それを見てると、私はたまらなく愉悦を感じるんだから。あの二人の悔しそうな顔を見るのが楽しみで仕方ないわ」


 倉掛さんは、クックックッと悪巧みをするような笑みを浮かべながら話す。


「それはいいけど、美玲が受け入れてくれるかどうか……」

「そうよね。自分の秘密を明かすには、相当な勇気と覚悟が必要になるわ。彼女の立場も崩れるかもしれないし……。桐生君、彼氏としてどう思う?」

「まずは、もうひとりの協力者に相談してみます。その後で美玲にも話してみます」


 俺がそう言うと、颯真は微笑みながら頷いた。


 ☆★☆★☆★


 この話し合いのあと、門真さんからEchoLinkで連絡をもらった。


【 そろそろだなラビタス 】

【 はい。そのことでご相談があります 】

【 ミリィのことか 】

【 そうです。今日、ミリィが月舘美玲だと明かしてもらうプランが提案されたんです 】

【 なるほど…そっちの方がいい可能性が出たか 】


 門真さんの返事は少し遅れてきた。


【 美玲には本当に申し訳ないんですが、俺と颯真、それに倉掛さんも、この方法が一番確実だと考えてます 】

【 難しい話だな。ミリィには、ラビタスに好きだと告げることよりも、勇気と覚悟が必要になるわけだしな 】

【 そうですね。もっといい案があればよかったんですが… 】

【 でも、お前がそこまで謝ることはないだろ。ほんと、優しすぎるよ 】

【 ありがとうございます。ただ、第三者に悪意を持って暴露されるよりは、自分から明かしてしまう方が良いかと 】

【 …確かに、それがいいかもな。少し時間をくれ。日にちはまだあるんだし、他の方法も考えておく 】

【 話を聞いてくださってありがとうございます 】

【 構わないさ。カレンやリーコにも聞いてみるよ。ミリィにもそれとなく伝えておく。今、状況が変わってるからな 】


 俺は門真さんにお礼を伝え、チャットを閉じた。

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