二学期が始まり、雅久は放課後に瞬に呼び出され、指定された教室へと向かった。
教室には瞬以外に誰もいない。夕闇が教室を覆い始め、蛍光灯の微かな光が二人の顔をかすかに照らし出していた。
「神崎、進捗はどうだ?」
「ええ、順調に進んでいます。『ステラノヴァ』を学園に招待する準備は整いつつあります」
「そうか。計画通りだな」
「はい」
雅久は頷く。
「ところで、神崎……桐生直哉と月舘美玲の関係について、どう見ている?」
「夏休み中、少し距離が縮まったように見えます。月舘美玲が桐生直哉の提案に笑顔を見せる場面もいくつかありましたし」
「そうか……。なら、月舘美玲の秘密を暴くのは面白みに欠けるな」
「……!? 三島さん……! それだけはおやめください!」
雅久は瞬の意図を察し、慌てて声を上げた。
「なんだ、俺が月舘美玲を死ぬほど追い詰めるとでも?」
「は、はい……」
雅久は冷や汗をかきながら答える。
「自殺させてしまうのが怖い、と?」
「……それが心配でして」
瞬は腕を組み、しばし沈黙した。
「まあ、そこまではしないさ。さすがにそれでは人殺し扱いされるだろうからな。
俺がしたいのは、ただ、あいつの信用を失墜させることだ。学園生や教師から厚い信用を得ているのがどうしても気に入らない。
俺のなにが悪かったっていうんだ……くそったれめ……」
瞬の暴言とも取れる発言に、雅久は一瞬口を閉ざしてしまう。
「三島さん……そこまで月舘を恨んでいるのですか?」
「ああ……。だが、殺人犯にはならないようにするさ。神崎、引き続き頼んだぞ」
「お任せください……」
☆★☆★☆★
文化祭のミーティングも、ついに最終局面に差し掛かっていた。
ミーティングが終わり、帰ろうとしたとき、ふと神崎雅久が座っていた席に目をやる。
そこには紙束が残されていた。普通なら無視して帰るところだが、どうも気になって手に取ってみた。
紙束の上には今日のレジュメが置かれていた。それだけなら問題ない。
しかし、その下には薄い紙切れが一枚。見た瞬間、胸にざわつきが走った。
俺は無意識のうちに、生徒会室にあるコピー機でその紙をコピーしていた。
オリジナルは元の場所に戻し、足早にその場を立ち去る。
どうしても、その内容を確認せずにはいられなかった。
【 我が救世主、それは本当かい 】
家に帰り、その紙の内容をじっくりと読み込んだ俺は、すぐにEchoLinkで颯真に連絡を取った。
【 ああ、神崎のヤツがここまでやるとは思わなかった。見てしまったよ、あの内容を 】
【 門真蒼司に連絡は? 】
【 まだだ。まずお前に知らせたかったからな 】
【 そうか。ありがとう。我が救世主。神崎雅久と三島瞬について、私ももう少し調べてみるよ 】
次に、門真さんに連絡を入れる。
【 …そうか。ついに動き始めたか 】
【 僕が読んだ内容が本当なら、ですけどね 】
【 おそらく本当だろう。こっちでも警戒しておく。何か起きるかもしれないからな 】
【 それと、門真さん 】
【 なんだ? 】
【 ミリィに、俺の気持ちを伝えるべきですかね 】
【 ああ、そうだな。ミリィがどれほどお前を信頼し、愛しているか、よくわかっているだろう 】
【 ……わかりました 】
【 お前ら二人がすれ違うのだけは、俺もどうしても見たくないからな 】
その言葉を残し、門真さんはチャットを去った。
俺はしばらくの間、画面を見つめていた。
ミリィとの関係が壊れてしまうかもしれない……。
その恐れが俺の胸を締めつけてくるようだった。