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第11話

 副会長の動きに警戒しながらも、中間テストや期末テストを乗り越え、夏休みを迎えた俺たち。

 時々、生徒会役員として学園に登校しなければいけない日もあるが、大まかには夏休みがある。

 そんな中、俺は門真さんにステラノヴァの遠征ライブに同行してほしいとの連絡を受けた。

 どうやら、ミリィのリクエストなのだという。

 だがそこに俺は違和感を覚えた。

 『月舘美玲』のシナリオにそんな流れがあったかと。

 しかし思い出せない。颯真や俺が起こした行動のせいで、世界の運命が変わってしまったのか?

 それならば、颯真の言う『この世界が想定していない結末』を迎えることだってできてしまうとするならば……。

 俺は門真さんの依頼に同意して、詳細を教えてもらった。


 ☆★☆★☆★


 門真さんの指示通りに、浪速坂町の駅前ロータリーで待っていた。


「ラビタスだな」

「はいそうです」

「すまないな。さあ乗ってくれ」


 後部座席にはステラノヴァメンバーが勢揃いしていた。そこに入る俺。


「君がラビタスね?」


 移動中、横に座っていた女の子が話しかけてきた。


「アッハイ。……えーと、カレン……さん?」

「そうだよ。あーしがカレン」


 一晴が推しているカレンは明るい茶色の髪色でロングヘアの女の子で明るい茶色の瞳をしている。

 自分のことを「あーし」って言ってるのは、キャラ付けの一環なのだろうか。


「そして、わたくしがリーコですわ」


 リーコと名乗った女の子は、カレンと違い、上品なお嬢様口調で話す、カレンと同じくらいの髪の長さでウェーブの掛かった黒髪。

 瞳の色は濃い茶色である。……口調はキャラ付けかなと思う。


「ラビタスさまのお話はミリィや門真さんからお伺いしていますわ。ミリィの騎士ナイトとは羨ましい限りですわ」

「いえ、そんなお畏れたものではないですよ。ただ、門真さんからミリィを学園から見守ってほしいって言われただけですよ」


 神崎のヤローが、ミリィこと月舘さんに何かしらの恨みを持つ三島瞬という男と共謀していると聞いて、彼や神崎の悪の手から守るために動いているだけだ。

 ミリィが生徒会会長である月舘美玲であることはまだバレていない。

 薄々気づいているやつもいるかもしれないが、あくまでも噂の域を出ない。

 誰も本当だとは信じていないのだ。

 品行方正の生徒会会長が地下アイドルであるだなんて、与太話にしかならない、と思っているやつもいるんじゃあなかろうか。

 今はそれでいい。それでいいんだ。


「それでも私からすれば羨ましいと思っていますわ」

「アッハイ……」


 ステラノヴァは個性的な地下アイドルなのだなと、カレンやリーコとの会話でそう思ったのだ。

 そして、ライブ会場に近いホテルの前に停車した門真さん。

 俺たち四人に降りるように促し、ホテルの部屋にチェックインさせた。


「あの……門真さん」

「どうした?」

「俺がミリィと同じ部屋で良かったんですか?」

「これもミリィが頼んできたことだ。俺は間違いが起きてはいけないから、俺と同じ部屋でいいんじゃないかと言ったんだが、聞き入れてもらえなかった」


 なんかゲーム世界らしい展開になってきた。

 ヒロインが主人公と少しでも同じ空間にいたがるっていう。


「わかりました」

「ラビタスの荷物はミリィの部屋に置いてくれ。その後で話がある。俺の部屋に来てくれ」


 ミリィの部屋に荷物を置いたあと、俺は門真さんの部屋に来た。


「門真さん、話ってなんですか?」


 ――瞬間、周りの背景が映りの悪いテレビ画面のようになる。


「実は、俺も暁颯真と似たような存在でな。俺は様々なハッピーエンドを迎えた『桐生直哉』なんだ」


 颯真と同じ懐中時計をぶら下げながら話す門真さん。


「それで颯真と同じ力を持っていたんですね」

「その通りだ。俺はミリィ……いや、月舘美玲という存在を見守りたい一心で、この世界に干渉を始めたんだ」

「干渉……?」

「その通り。颯真が果たせなかった結末へ、ラビタスを導くことが彼の使命で、俺は、月舘美玲という存在を見守り続けることがここでの役目さ。

 お前という『桐生直哉』はこの世界にとっては『特異点』とも言える存在なのさ」


 だから、俺が持っているこのゲーム世界の記憶がなかったり、欠落しているのか。

 その懐中時計をテーブルの上に置く門真さん。


「颯真の願い、俺の願いは、特異点であるお前にすべて託されている。俺はお前が美玲と幸せに学園生活を満喫し切ることを願っているんだ」

「そうしたら、門真蒼司というのは……?」

「特異点であるお前がここに現れたことで、名前を変えた『桐生直哉』その人さ。颯真はゲーム世界から存在を消された『桐生直哉』の残滓だ」


 門真さんは言う。


「……それで悪意あるものの正体はわかっているか?」

「はい。三島瞬と神崎雅久です。彼らが結託して、月舘美玲を陥れようと計画して、その片鱗が見えています」

「なるほどな。やはり、あの二人が『悪意あるもの』だったか。……全く。何度も何度も……」


 『桐生直哉』に戻ったかのように話す彼。


「何度もやられても、何度でも『桐生直哉』に挑むのか、愚かな奴らめ。勝てるわけがなかろうに」

「では今回も……?」

「今回も勝利への終着駅は見えている。おまけに俺や颯真の支援付きだ。あいつらが勝てる要素なんてあるわけがないと断言したいが……。

 それは特異点となったラビタス。お前の行動次第だ」

「俺の行動次第……」

「もちろんだ。勝てる要素はいくらでもある。まあ、負けることはないだろうが、少しでも違った行動をすれば、颯真と同じ様になってしまうぞ」


 脅すような口調で俺に言う。


「ミリィが学園内ではお前を頼っている、という条件はクリアされている。おそらく、それはお前の行動の積み重ねの結果だな。

 一番に頼られるかどうかは、まだわからないが、ミリィは学園の外でもお前と一緒にいたいと思っているのだろう。

 そのことから遠征ライブに誘ってほしいと願い出たのだと俺は考えている」

「門真さん……。ってことは」

「あぁ。ミリィが同じ部屋にしてくれと言ったのもそれが理由にあるかもしれんな……」


 風景がもとに戻っていく。


「さて俺の話はここまでだ。そろそろミリィのところに行ってやれ」


 はいと答えた俺は、月舘さんのところへ向かっていった。


「――これでいいんだな。見えもしない神よ」

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