目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第10話

 一年中温かい気候のこの世界に、夏の暑さが近づき、そろそろ6月になろうとしていた。

 文化祭の打ち合わせは着々と進み、『ステラノヴァ』へのオファーも検討され始めた頃。

 颯真が生徒会のミーティング終わりに俺と倉掛さんを呼んだ。


「直哉君、これはただ事じゃない。三島という男と副会長の神崎が会話しているところを聞いたのだが、三島が生徒会長を陥れようとしている」

「なん……だと……」

「そう……。やっぱりね」

「倉掛さん?」


 颯真の言葉に納得したようなセリフを言った倉掛さんに疑問を持った俺。


「あのあと、鹿伏兎先生と話すキッカケができたから聞いたのよ。

 三島という男は『三島瞬みしましゅん』という名前で、元生徒会長。その時の副会長が月舘さんだったの」

「それで……?」

「会長の三島よりも副会長だった月舘さんが、学園生のことを思った行動をしていたということで、人気になってしまったの。

 生徒会選挙の時、三島と月舘さんから選ぶことになったのだけど、圧倒的支持で月舘さんが会長に選ばれて、三島は学年のこともあって生徒会から退させられてしまったって」

「けど、どうやって三島は神崎のヤローを送り込むことができたんだ?」

「月舘さんが生徒会長になった直後、副会長のイスが空席になって誰も座りたがらなかったから、鹿伏兎先生に神崎雅久を入れてやってほしいと、三島が嘆願に来たらしいのよ」

「鹿伏兎先生はそれを受け入れたのか……」

「土下座もしかねない動きだったから受け入れたんだって」


 そういう流れで神崎が副会長のイスに……。

 それで鹿伏兎先生は三島が神崎を使って何かをするんじゃないかと疑ったから、図書委員長だった倉掛さんを監査として送り込んだのか。


「ねえ、颯真君。あなたが聞いた三島と神崎の会話、詳しく教えてもらえる?」

「あぁ。詩乃さんの言うように、三島は神崎を使っていた。神崎の手のひら返しは、三島の指示なんだと思う。

 学園内に『ステラノヴァ』の噂話を流したのは、自分だと神崎に告げていた」

「三島め……」

「けど、どうやって、その三島って男は『ステラノヴァ』のことを知ったんだろうな?」


 俺は颯真に尋ねた。


「生徒会長が土曜日に休むことがあることを知った三島は、わざわざ学園を休んでまで、『ステラノヴァ』のライブに行ったという。

 その時、ミリィが生徒会長ではなかろうかと思ったらしい」

「なるほどな……。倉掛さんと同じ経緯で『ステラノヴァ』を知ったのか……。それを月舘さんを陥れる材料にしたということか……許せん」

「私もそう思うよ、直哉君」

「――颯真君。私からもお願いするわ。生徒会長を……月舘さんを助けてあげて」

「あぁ、もちろんだとも」


 ☆★☆★☆★


 三島と神崎の企みを颯真から聞いた日の夜。

 メッセージアプリ『EchoLinkエコーリンク』が新着メッセージを受信したことを知らせた。


【 突然すまない。俺は門真蒼司という 】


 門真蒼司!? どうやって俺の連絡先を知ったんだ!?


【 か、門真さん!? どうやって俺の垢を知ったんですか!? 】

【 ミリィから聞いた。どうしてもお前に言いたいことがあってな 】

【 門真さんからってことは、ミリィに関することですね? 】

【 もちろんだ 】


 門真さんは続ける。


【 九重葛学園から文化祭のライブステージに出てきてほしいとオファーが来た。ミリィのいる学園からオファーが来るとは想定していなかった 】

【 オファーが来たということは仕事になるから喜ばしいことなのだがどうにもきな臭さを感じる 】

【 悪意あるものがミリィの正体を暴こうとしているのではないかと 】

【 このオファーは会社が受けることになった。私情を挟むことはできない。だがミリィたちを悪意あるものから守るのが俺の仕事だと思っている 】

【 そこでだ。桐生直哉。俺はお前に協力するとともにお前にミリィを学園から見守ってほしい 】

【 わかりました門真さん。俺にできることならぜひとも 】

【 あと味方は一人でも多いほうがいい。カズを呼んできてもらえないだろうか。あいつはカレンを推していたはずだ 】

【 協力してくれるならカレンとの交流会の優先権を、カレンを推す限り保証するとマネジャーの門真蒼司が言っていた、と言ってくれるか? 】


 そんな事を言っていいのか……。

 門真さんにもなにか考えがあるのかもしれない。

 わかりましたと、門真さんに送信して、一晴を呼んだ。


【 直哉氏が言うので来てみましたぞ。本当にマネジャーの門真蒼司殿でござるか? 】

【 ああ、本当だ 】


 と、門真さんは、写真に撮った名刺を会話の流れに乗せた。


【 これは失礼した。それで門真さんは俺になにを協力せよと仰るので? 】

【 ラビタス……桐生直哉と共にミリィを見守ってほしい 】

【 ンンン? どうしてそういう話になったんだ? 】

【 カズ、ミリィはお前の知る生徒会長だ 】

【 な、なんと! マネジャーがそれを暴露するということは、ミリィの身に余程のことが起きたと思ったほうが良いと…! 】

【 その認識で間違いない。すまないがラビタス同様にこのことは他言無用としてくれ 】

【 もちろん。この北条一晴、そのお約束はしっかり守らせていただきます。…して俺は直哉と共にミリィを見守ってほしいということですか 】

【 あぁ。なんでもいい。ミリィが無事学園生活を送れるようにしてくれればどんなことでも構わない。マネジャーとしての願いだ 】

【 委細承知 】

【 助かる。ラビタス、カズ、頼んだぞ 】


 そこで会話は終わった。

 このことに関して、ステラノヴァマネジャーの門真さんも協力してくれることになった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?