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第9話

 ゴールデンウィーク明けの学園。

 相変わらず、『ステラノヴァ』が学園を騒がせている。

 俺だけがミリィの正体が、生徒会長である月舘美玲であることを知っている。

 ……いや、俺だけじゃないか。颯真も知っているはずだ。

 あいつがいつも手にしている手帳にはそういう記述もあるだろう。

 それに颯真は、ゲームのバッドエンドという結末に至ってしまった『桐生直哉』の集合体だしな。


「そう言えば、直哉氏」

「どうした、一晴」

「『ステラノヴァ』をもっと知りたがっている友もいるのでなかろうかと思うだけど、どう思う?」

「んー……。公式やウィキペディアのようなページで公開されている以上の情報を俺たちが持っていると思うか?」

「それもそうでござるな。それに、そういう情報を持っていたとしてもおいそれと言えるわけではないし」


 朝のホームルーム前に一晴が言う。


「そういうことだ」

「……それと直哉氏」

「なんだ?」

「なにか秘密を握っていそうな気がするんだが」


 鋭いなこいつ。だが話してやんねえ。月舘さんと約束した秘密だ。


「さてな。公式で公開されている以上のを俺が持っているわけなかろう?

 一晴、一度疑われたからやり返しのつもりか?」

「半分ありますぞ」

「んむ、そうか」


 そして、ホームルームが始まったのでお開きとなった。

 ステラノヴァの公式が公開されている以上の情報を、一晴も知りたがっている。

 ……噂が広がって厄介なことにならなければいいが……。


 ☆★☆★☆★


 放課後、文化祭に関するミーティングで珍事件が起きた。

 文化祭情報の拡散をSNSなどでやることや、ライブステージに『ステラノヴァ』を呼ぶことに反対していた副会長の神崎雅久が、手のひらを返したかのように賛同してきたのだ。

 一同が疑いの目を向け発言した時、奴は、


「心外だな。俺だって考える頭を持っている人間だぞ?」


 ……と答えたのだ。


「では、その方向性で考えていくことにしましょう。七星さん、予算の検討をお願いします」

「ええ。なんとかしてみるわ」


 ――なんか怪しいな。

 なにか裏がありそうだが、俺たちだけでどうやってこいつの態度の変化を見つけるのかって話だ。


「おそらく、なにかの差し金があったのではなかろうか。この一ヶ月の間に態度を変えるのには少し不審感がある」


 そのミーティング終わり、図書室に集まった俺、颯真、倉掛さん。

 話し合いの始まり、颯真がさっきの言葉で口火を切った。


「それは私も。態度を変えるのはさすがに怪しいと感じざるを得ないわ」

「倉掛さんは監査として生徒会に参加していると言ってましたけど、図書委員長が先だったんですか?」

「そうね。神崎雅久が空席だった副会長として座るようになったのを怪しんだ先生がいたのよ。私はその先生に頼まれて、生徒会にいるの」

「どうして倉掛さんに声をかけたんでしょうね、その先生は」

「さてね。それはその先生……、鹿伏兎かぶと先生に言ってみないとわからないわね」


 倉掛さんが言う。


「そうだ。月舘さんが生徒会長になる前の会長って誰だったんですか?」

「鹿伏兎先生なら知ってるかもしれないけど、私は知らないわ。……暁君は知ってる?」

「いえ。私も知りません。……私の持っている手帳は過去現在未来を見通す力がありますが、自分が知らない過去は知ることができないのです」


 万能ではないのか。


「直哉君のために、私も神崎雅久という男については探りを入れてみようと思います」


 颯真は倉掛さんに言う。


「ありがとう。鹿伏兎先生に話す機会があったら、私も聞いてみるわ」


 3人だけの話し合いは颯真が神崎雅久に探りをいれる、倉掛さんが鹿伏兎という教師に話を聞いてみるということで終わった。


 ☆★☆★☆★


 生徒会のミーティングが終わり、そそくさと立ち去る神崎雅久の姿を見た颯真は気配を消して、彼のあとについて行った。

 神崎のあとをついていくと三年生のいる階についた。そして、空き教室に入っていく。


「……三島みしまさん」

「神崎か」

「はい。三島さんの言う通りにしてきました」

「よくやった。これならば『ステラノヴァ』はこの学園に来ざるを得なくなる。その時が、月舘美玲の最後だ」


 月舘美玲の最後だ、だって?

 颯真は三島という男の言葉に驚きを隠せない。


「それにしても、三島さん。どうやって『ステラノヴァ』のことを知って、学園中に拡散したんですか?」

「月舘美玲が土曜日にいなくなることがあるだろう?」

「ありますね」

「奴が学園を休んだ日には、『ステラノヴァ』のライブがある日がある。そこに彼女がいるはず。そう睨んだ俺は、ズル休みしてまで探ったのさ。

 そうしたらドンピシャよ。『ステラノヴァ』のミリィは月舘美玲だってな」

「会長が? まさか」

「そのだぞ、神崎。だが、それだけではつまらないからな。

 学園中の生徒が興味を持つような言い方で『ステラノヴァ』のことを拡散したのは俺の仕業さ」


 三島は邪悪な笑みを浮かべながら言う。


「恐ろしいことをしますね、三島さん」

「クックックッ。月舘美玲には苦しんでもらわなければ俺の気がすまないのでね」


 なんということだ。


 ――神崎雅久は三島という男の命令で態度を変えていた!


 そして学園で『ステラノヴァ』が噂になるようになったのは、三島の仕業だったとは。

 大変なことになったと感じた颯真は、神崎や三島に気づかれないように、急いでその場を立ち去ったのだった。

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