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第8話

 5月のゴールデンウィークとなった。

 俺は月舘さんから直接連絡を受け、虹架市のライブ会場に行くのなら、ライブが終わったあと、待っていてほしいと言われた。

 どういうことだと返すと。


【 詳しいことはその時に話すから 】


 と、だけだった。

 言われたとおりに、一晴と共に虹架市のライブ会場に行き、交流会を済ませ、ライブ会場の外で待っていた。


「……? 直哉氏、なんでそこで待ってるので?」

「『ステラノヴァ』の『ミリィ』にここで待ってて、って言われたんだ」

「珍しいこともあるのでござるな~。あぁ~、某もカレンちゃんにそういうことを言われてみたいですぞ~」

「だから、先に帰ってくれ。すまん」

「いいでござるよ~」


 にこやかに手を振り、虹架橋の駅へと向かっていく一晴。

 しばらくすると、カレンやリーコと共にミリィが姿を表す。

 スーツを着た男になにかを話したあと、俺に駆け寄る。


「お待たせ、ラビタス君」

「アッハイ」

「それじゃ、行こっか」

「行くってどこに?」

「虹架のオタクストリート!」


 ☆★☆★☆★


 ミリィと共に歩く俺。

 彼女の見た目は、月舘美玲とは一見すればわからない。

 だが、瞳の色が緑がかった茶色のままなので、おそらく彼女は月舘美玲なのだと思う。


「ねえ、ラビタス君」

「はい」

「なんでアタシがラビタス君を呼んだかわかる?」

「わからないです」

「じゃあ、これはなんだと思う?」


 取り出したスマホの画面には俺との会話が表示されている。

 その時、はっきりした。

 九重葛学園生徒会会長の月舘美玲は、地下アイドルグループ「ステラノヴァ」のミリィであると。


「なんであなたが……」

「……ミリィは作った偶像アイドルじゃないの。私がこうしたい、と思った姿が、ミリィなの」


 話し方がミリィではなく月舘美玲に


「生徒会長としてのストレスが原因ですか?」

「それもあるけど、学園で『ステラノヴァ』が有名になりすぎたでしょ?」

「確かに」

「生徒会長である私がこんなことをしているなんてとかさ、ね?」


 確かにと思った。


「学業を優先したほうがいいんじゃないかって、門真さんに言われたりするけど、こっちを優先したいときもあるの」

「それで土曜日に登校してこないこともあるんですね」

「そうなの」

「じゃあ、家族の用事があるっていうのは、本当はこっちに行く理由のカモフラージュだったんですね」


 俺の言葉に肯定する月舘さん。


「でも、今はオフモードのミリィとして接してほしいの。アイドルの時のミリィとは違う……ね」

「わかりました」


 俺はオフモードのミリィとして、月舘さんと接した。

 彼女が見たいもの。気になったもの。食べたいと願ったもの。

 その秘密を共有するためのお金だと思えば、払うことも苦に感じることはなかった。

 そうして、ミリィとの逢瀬はあっという間に過ぎていき、スーツ姿の男が月舘さんを迎えに来たことで終りを迎える。


「それじゃあね、ラビタス君。……学園では生徒会長として接してね。約束だよ」

「ええ」

「……ラビタス。虹架橋の駅まで俺も同行させてもらいたい」

「いいんですか?」

「ミリィがどうしてもということでな」


 スーツ姿の男が言う。


「んもぅ、門真さん!」

「ここで『はい、さようなら』っていうのはミリィにとっても後味が悪いだろうと思ってな」


 スーツ姿の男は門真かどまというのか……。この男、デキる……。

 そうして、虹架橋の駅の入口まで来た。


「今日はありがとうな、ラビタス。ウチのミリィを、ひいてはステラノヴァを贔屓にしてくれ」

「あ、いえ……。それでは」


 そう言って、俺は虹架橋のプラットフォームまで歩き始めた。


 ☆★☆★☆★


「良かったんだな、ミリィ」

「いいの」

「お前が通っている九重葛学園でお前たちが知られすぎてる……。その相談を持ちかけられた時は、冷や汗をかいたぞ」


 ラビタスこと桐生直哉を見送った帰り道、門真蒼司かどまそうじが月舘美玲に言う。


「ごめんなさい」

「その時にも言ったが、それはお前が謝ることじゃない。

 ……そうなると、お前が学園の生徒会長でアイドルやってるってバレてしまうことになるな」

「だから、彼に白羽の矢を立てたの」

「それなら、カズでも良かったんじゃないのか、と思ったが、アイツはカレンを推していたからか」


 そういうこと、と、美玲が言う。


「ねえ、門真さん」

「なんだ?」

「ラビタス君は、私の秘密をバラすような人間に見えた?」

「ほんの少しだけしか見ていなかったから、断言はできないが、そういう男には見えない。

 ラビタスはミリィの秘密を知ったところで、話すことはないだろう。推しとの約束を破る男はそういないはずだ」


 蒼司の言葉に安堵を覚えた美玲。

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