目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第6話

 美玲とミリィの関係性を知的好奇心から暴いてしまった倉掛さん。

 だが彼女は、神崎雅久に知られることを危惧して俺の目の前でその情報すべてを消去した。

 そんなことがあった土曜の生徒会ミーティングの終わり。

 神崎雅久はミーティングが終わると早々に帰ってしまった。

 談笑している暇はない、と出ていく神崎雅久を引き止めるものはいなかった。

 ……嫌われてるよなこれ、と俺は感じた。

 今までミーティングしていたテーブルには各々のお昼ご飯が並べられている。


「そう言えばさ、かいちょー、家の用事は大丈夫なんですかー?」

「ええ。今週はないのよ。だから日曜日は久しぶりに家でゆっくりできるわ」


 月舘さんが小鳥遊さんの無邪気な質問に、食べ終わってから答えた。

 ただ、倉掛さんと俺はおそらく月舘さんはステラノヴァのミリィである可能性を疑っている。

 そのことを知らない小鳥遊さんや青山さんには『家の用事』と言っているのだろう。

 家の用事と言っておけば、誰も突っ込まないからな。


「ということは、ステラノヴァのライブは今週ないということね」

「それかお休みをもらっているかのどちらか、ですね」

「そうだと思うよ、直哉君」


 倉掛さんが俺に話しかけ、俺と颯真が答える。


「颯真……お前」

「おっと失礼」

「……いいのよ。あなたも知っているんでしょう。月舘美玲の秘密」

「ええ。知っていますとも。ですが、この場で話すのははばかられる内容ですので」

「それならいいわ。このあと、図書室でおちあいましょう」


 お弁当を食べ終わった俺と倉掛さんと颯真は、月舘さんと小鳥遊さん、青山さん、七星さんに図書室に向かうと言って生徒会室を出た。


 ☆★☆★☆★


「さて。ここなら誰も来ないでしょうから、存分に話してちょうだい。暁颯真。あなたの正体を」


 土曜の図書室は誰もおらず、倉掛さんが先生に言って鍵を貸してもらわない限り、扉は閉められたままだ。

 それに内側から鍵をかけ、やっていないことを扉にかけておけば、誰も近づこうとはしない。


「いいでしょう。私の正体は、月舘美玲を救うことができなかった『桐生直哉』の集合体なのです」

「生徒会長を救うことができなかった桐生君の集合体……? なにそれ……?」

「不思議に思うでしょうが、それが『暁颯真』という私なのです」

「なるほど……。そうなると、あなたの首にかけている懐中時計や常に手にしている手帳にはがあるのね」


 はいと答える颯真。


「だとすると、私の見ている桐生君と暁君は、元々この世界にはいなかった存在……ということになるのね」

「そうなるかな」

「おそらくは」


 倉掛さんの問いに答える俺と颯真。


「――なるほど、そういうことね。それなら、私も生徒会長の秘密を守るのに協力するわ。あなたたちと一緒にね」

「よろしいのですか?」

「ええ。知ってしまったもの。生徒会長である月舘美玲がステラノヴァのミリィと同一人物じゃないかって。

 ――知らない罪と知りすぎる罠――。そして動けなくなる前に動き出せば……ってね」


 ある特撮作品で使われた歌の歌詞だ。


「それで暁君は、桐生君があなたの二の舞いにならないように手助けをしたい……ってことよね」

「その通りです。直哉君を私と同じようにしないために、彼のそばにいます。……直哉君、倉掛さんの近くにいてください」

「わかった」


 颯真は首にかけている懐中時計のスイッチを押した。

 瞬間、図書室の風景が映りの悪いテレビ画面のようになる。


「なにこれ……。どういうことなのか教えてちょうだい」

「私と直哉君には、このような力が備わっています。

 直哉君は使ってないでしょうが、同じ懐中時計を持っているおかげで私が止めた世界の中で話すことができるのです」

「止めた世界……。確かに時間が止まっているわね……。風景もどこか気味の悪いものになっているし……」


 もう一度スイッチを押した颯真。風景が元に戻っていく。


「……あなたたちは不思議な存在なのね」

「はい。そう思っていただければ」

「そうね……。神崎雅久の暴挙を止められるのなら、私には悪魔に魂を売ったっていい覚悟があるわ」

「どうしてそこまでして?」


 颯真が尋ねる。


「さっきも言ったように私は知りすぎたからよ。好奇心は猫をも殺すの」


 ――こうして、倉掛さんも俺と颯真の仲間に加わった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?