移動教室の時に、図書室を見つけ、昼休みなら開放されているんじゃないかと思い、昼休みに向かってみた。
開放されている図書室のカウンターには見慣れた女子生徒が座っている。
「……ごめん。今いいかな」
「どちら様? ……あぁ、桐生君じゃない、どうしたの?」
「あぁ。図書室ってどんなところかなぁと思って来て、カウンターを見たら、倉掛さんを見かけたからつい」
「そう。……私ね、この静寂が好きなの。だから授業がある時と生徒会の集まりがない時以外はここにいるだろうから、用事があったらここに来てみて。
こうやってカウンターで座っているかもしれないから」
「ありがとう。それじゃ静かに本を探してみるよ」
俺の言葉に頷く倉掛さん。そして、視線を正面に戻したようだ。
倉掛さんはメガネを掛けた青みがかった黒色の瞳で髪色は俺たちと同じ黒い髪だった。
文化祭の最初のミーティングで特に意見も言わなかったけど、完全中立という立場じゃないかと思う。
それか『私には関係ないから』という意思表示か。
さて。俺はついでに探しものをしてみよう。
図書室には様々な本があり、高校生向けの本や話題の漫画、人気の漫画も置いてある。
〔人気の漫画もあるのか……。品揃えというのか、ラインナップがすごいな〕
倉掛さんはこういうのは好きなんだろうか。
彼女が読んでいる本や気になる本って……そりゃあるよな。
確か、前世の俺は倉掛詩乃のシナリオもクリアしたはずなんだけど、どういう経緯からだったか覚えてない。
こういう記憶の欠損も、ゲーム世界が少しずつ変化しているせいか?
あまり印象に残ってないと言えば、彼女に失礼か。
☆★☆★☆★
「あっ、直哉氏~」
生徒会の集まりがない日の放課後、俺のところに一晴が本を持って現れた。
「どうした?」
「申し訳ないのだけど、これを代わりに返してきてほしいですぞ……」
「お前が行けばいいだろ。どうしたんだよ」
「今から帰らないと見たい番組に間に合わなくなるのでござるよ~」
「………。わーった。やっておくからお前はさっさと帰れ」
「恩に着るですぞ~~~!」
ダッシュで帰っていく一晴。
〔筋金入りのオタクだな……やれやれ〕
一晴の代理として本を返しに図書室へ向かった。
カウンターを見ると倉掛さんが退屈そうにしていた。
「倉掛さん」
「……あら、桐生君。来てくれたんだ」
「ン。ちょっと友人が本を返してほしいって俺に頼んで帰りやがったんで」
一晴が借りた本の返却手続きをする倉掛さん。
「――確かに全部あったわ。北条君に返却手続きをしたって言っておいてちょうだい」
「わかった」
「あ、ちょっと待って」
そのまま帰ろうとした俺を倉掛さんが呼び止めた。
「どうしたの?」
「……放課後でゆっくりしていたのだけど、そろそろ図書委員長としての仕事をしなきゃと思ってね。少し付き合ってもらえるかしら」
「俺で良ければ」
図書委員長としての仕事ってなんだろうな……。
そう思いながら、倉掛さんについて行った。
難しいことでもするのかと思ったら、図書室の見回りだった。
そんなに広くはないが、図書室でグースカ寝てるやつを起こして退室を促したり、あるべき場所に本がちゃんと置いてあるかどうか、ということもしているらしい。
今日は幸い、入れ違いやグースカ寝てるアホはいなかったらしく、ものの数分で終わった。
「それじゃ、特に用事もない学園生を返すのが6時頃だからその時間までいてくれるかしら」
「えっ?」
「ずっと一人で暇だったの。それに読みたい本もだいたい読み切っちゃったから……」
あぁ、話し相手になってほしいってことね。
「……桐生君は知ってる?」
「なにをですか?」
「月舘さんの話」
「生徒会長の話? なにがあるんですか?」
倉掛さんは図書室のカウンターにあるメモ帳に「Stella Nova」と書き記した。
……ステラノヴァ!?
どうして倉掛さんがそのことを!!??
「前に一度、月舘さんが土曜日に学園を休んだことがあったの。家族の用事があるっていう風に聞いたのだけど、その日付になにやらイベントがあったらしくて。
それで調べてみたら、ステラノヴァっていう単語にぶつかったのよ」
「それで……?」
「ステラノヴァのミリィって、月舘さんにそっくりじゃない?」
倉掛さんは、持っていたスマホの画面に月舘さんの顔とミリィの顔を同時に表示させた。
「そ、そうですね……。それで倉掛さんはそのことを知ってどうするんですか?」
「どうもしないわ。私の好奇心の赴くままに調べただけ。そうしたら、月舘さんとミリィがイコールの関係じゃないかっていう推測をしただけ」
「あの。情報が漏れないように気をつけてくださいね?」
「ええ、それはもちろん。特に神崎雅久には気づかれないようにしなきゃね」
彼女は俺の宿敵の名前を上げた。
「どうして彼の名前を?」
「あの副会長、就任してから怪しい動きばっかりしてるって感じるの。月舘さんの会長のイスを狙ってるんじゃないかって」
「じゃあ、月舘さんをどうにかしてどかしたいと思っているとか?」
「
ここで明かされた衝撃の真実。
颯真がでっち上げた立場ではなかったのか、監査の立ち位置!
「どうして、倉掛さんが?」
「美玲が会長に就任したと同時に、神崎雅久が副会長に入った理由が不透明だって生徒会を指導する先生が不審がっていたの。
そこで私に白羽の矢が立って、副会長の監査として生徒会に入ってくれって」
「こいつぁたまげた……!」
「暁颯真という男の子が、桐生君を監査するように、私はあの男を監査するために生徒会にいるの。だから、この情報はあなたの目の前で消すわ」
月舘さんとステラノヴァのミリィの関係性を示すようなファイルを、俺の目の前で全て消した。
「こうすれば、月舘さんの秘密は守られる。……おそらく、月舘さんはあなたを手元に置いておきたかったのかもしれない。
――いつか、自分がステラノヴァのミリィだって桐生君自身が気づいて、暴露してしまうのではないかと」
倉掛さんは怖いことを言う。もしそうだとしたら……。