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第4話

 ある日の放課後、一晴と共に教室を出ようとすると、女の声で俺の名前が呼ばれ、振り向いた。

 その女はメタルカラーのアンダーリムと呼ばれる形をしたメガネを付けたやつだった。


「桐生直哉って君よね」

「アッハイ」

「今から生徒会室に来てほしいのだけど、いいかしら」


 そう言われ、チラッと一晴を見ると。


「直哉氏、某のことは気にしなくていいですぞ。その女性について行ってあげて」

「あぁ、悪いな、一晴」


 某にはお構いなくと言って、一晴は帰っていった。

 俺はその女とともに生徒会室へ向かった。


「――ようこそ、我が生徒会へ。私は月舘美玲つきだてみれい

「アッハイ。よろしくお願いします」


 生徒会室には女子生徒が3人と懐疑的な視線を向ける男が1人、各々の席に座っている。

 美玲と言った女に促され、空席に座る俺。


「かいちょー、空白だった広報とが見つかったんですね~?」

「ええ、そうよ。小鳥遊さん。これでフルメンバーってことね」


 監査……? そんな役回りのやついたか?

 もう一度よく見ると、俺の隣に暁颯真こいつがいつの間に座っている!


「やあ、直哉君」

「あぁ……。お前が監査役か」

「その通り。といっても、生徒会全体の監査をする必要性はないと思うが、広報の監査役としてね」


 なるほど。そういうことか。

 俺と颯真がここにいるせいで、俺が持っているこの世界の知識がちょっとずつ違ってきている……ということか。

 どちらにせよ、俺と颯真を懐疑的な視線を送るメガネを掛けた男が見ている。なんなんだこいつ。

 ……あ、思い出した。

 こいつ、神崎雅久かんざきまさひさだ。生徒会副会長の。

 あー、思い出した。思い出した。


「さて、それではミーティングを始めようと思います。

 まずは広報として桐生直哉君。監査として暁颯真君を新たに生徒会のメンバーとして歓迎しようと思います」

「桐生直哉です。よろしくお願いします」

「暁颯真と申します。どうぞよしなに」


 神崎雅久以外の面々は拍手を持って歓迎を示した。……ホント、こいつは。


「……気をつけたまえよ、我が救世主。神崎雅久は私が最悪の結末に至ってしまった原因の一人なのだから」

「わかっている。あいつはずっとこっちを睨むように見ているんだからな」


 颯真の言葉に返す俺。


「それでは、まず今回の議題についてです」


 美玲はホワイトボードに『本日の議題:文化祭について』と書いていく。

 文化祭……か。まだ春なんだけども……。

 そう言えば、この世界の気候は『四季暖春しきだんしゅん』という表記ができるほど、一年中温暖な気候だったっけ。

 まあ、下準備だの各方面への手回しだのなんだのと色々あるからか。


「――今回は、広報である桐生直哉君を生徒会のメンバーとして招聘しょうへいしたので、彼の意見を聞いてみようと思います」

「えっ!?」


 名指しされ驚く俺。

 隣りに座っていた颯真が『今がチャンスですよ、我が救世主』と、書記の青山さんに渡されたレジュメの端っこに書いて応援してくれているようだった。


「えっと……。文化祭が外に向かって開かれているのであれば、学園の教師と相談して、SNSなどで情報を発信してみるのはいかがでしょうか。

 学園内でなにかイベントをするのならば、ポスターなどで広く告知して参加者を募ったりとか……どうでしょう」


 思いついたことをそのまま告げ、席に座ると颯真が笑顔でサムズアップしていた。

 ホッと一息をつく俺。


「それはいいと思うなぁ」と、小鳥遊さんが言う。

「ボクはきりゅー君の意見にさんせーい」

「内外に向けた考え方、というのはありだと思います」と、青山さん。

「保護者だけでなく、この九重葛ここのえかずら学園に関係している人たちに向けての情報発信もいいかなと」

「会計の立場からすれば、中立の立場でありたいと思いますが、賛成か反対かで言えば、私個人の意見としては賛成です」


 七星さんが言う。


「俺は反対だ」と、副会長の神崎が言う。


 ……そりゃあ、オメーは俺の敵になるんだろうし、頭でわかっていてもむかっ腹が立つ。


『落ち着きたまえ、我が救世主。短気は損気という言葉をお忘れなく』


 俺の苛立ちがわかったのか、颯真はレジュメに書いた。


「青山の意見も最もだとは思うが、どうやって教師を説得するつもりだ。そこの配慮が足らないと俺は思う」

「――その点に関しては、検討するとしましょう。私としても良い提案だと思いますし、もしできなければそれも仕方がないものだと思います」


 文化祭に向けての最初のミーティングは、俺の意見が前向きであると判断されて、取り入れられるようになりそうだ。

 解散したあとも、神崎のヤローは俺を懐疑的な目で見ていやがった。クソ野郎


 ☆★☆★☆★


「チッ。余計なことをしやがるやつだ」


 文化祭に向けたミーティングが終わったあとの生徒会室でひとりボヤく神崎雅久。


「あいつさえいなければ、あのお方が月舘美玲を追い出し、生徒会を乗っ取る計画がちっとも進まないじゃあないか」

「なるほどねぇ。それで我が救世主の邪魔をしようって理由わけか」


 暁颯真が姿を表す。


「誰だ」

「私だよ。神崎雅久君」

「暁颯真……か」

「あぁ、その通りだ。……私から忠告しておくよ」


 颯真は雅久に敵意を向けるような表情をしながら言う。


「我が救世主の邪魔をしようとは思わないことだ。邪魔をするのであれば、私は彼に最大限の力を貸す」

「ハンッ。勝手にしな。お前ごときに何ができる」

「さて、どうだろうね? 私は君に恨みつらみのある『桐生直哉』の集合体なのだからね」

「なに言っているんだお前。わけのわからないことを」

「そのうち分かるさ」


 手帳をおもむろに開く颯真。


「……ふむ。未来が書き換わったみたいだね」

「なに?」

「預言しておこう。

 神崎雅久、君が誰と手を組んでいるかわからないが、君はその態度を改めない限りは完全敗北間違いなしだ」


 クックックッと笑いながら雅久の前から姿を消す颯真。

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