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第3話

 日曜日に、自分の置かれている状況を今ある情報で整理してみた。

 俺は「桐生直哉」としてこの世界に現れ、北条一晴と共に『ステラノヴァ』のライブを訪れた。

 そこにいたのはミリィこと月舘美玲。

 確か、ミリィと会うための条件は、生徒会に関わりのあるこのゲーム世界にいるヒロインとのハッピーエンドという結末に至らなければならないはずだ。

 しかし、俺が「桐生直哉」として現れたせいか、あるいは元々この世界にいた「桐生直哉」が前提条件をクリアしていたかのどちらかだ。

 おそらく後者はないのかもしれない。

 ……それは暁颯真の存在である。

 颯真は、『最悪の結末』を迎えてしまい、その存在をなかったことにされてしまった、と言っていた。

 それはつまり、生徒会副会長との言い合いに負けてしまい、副会長が美玲の秘密を暴露し、彼女が学園から転校せざるを得なくなってしまった。

 そして俺は美玲のあとを追うように学園から転校するという、実にバッドエンドらしいバッドエンド……と覚えている。

 エンディングコンプリートが実績の一つだったのもあったからな……。見るのはすごく辛かった覚えがある。

 そうすると、暁颯真は、実績解除のための「プレイヤー」に美玲のバッドエンディングを迎えてしまった「桐生直哉」の集合体なのだろうか。

 もしそうだとしたら、颯真のセリフも行動原理も理解できる。

 俺が「桐生直哉」として月舘美玲のハッピーエンドを迎え、数多あるバッドエンディングを迎えた「桐生直哉」にならないように。


 ――そして自分のような存在を生み出さないために。


 そう言えば、颯真は「だが、君ならば、この世界が想定していない結末を導くこともできるはずだ。そして、私がたどり着けなかった未来へと進むために、どうかその行く末を見守らせてほしい」とも言っていた。

 そうすれば、暁颯真の存在意義レゾンデートルが証明できる。

 見守らせてほしい……か。あいつも学園に現れるのか?


 ☆★☆★☆★


 ――翌日。

 俺は学園に向かい、一晴たちと出会う。


「おはようでござるよ、直哉氏!」

「よお、おはよう、一晴」


 挨拶を返した俺をにこやかな表情で返す一晴。

 俺はいい友達を持ったもんだと感じる。

 前世ではこういうやつを作れなかったからな……。

 さてと。学生生活も久々だな。

 まあ、こういうのが一番良かったと思えるのは前世がクソオブクソだったせいかね?

 それと……。暁颯真はどこにいるかなと。

 ………。

 うーん、見当たらないな。さすがにここまではいないか?


「――私を探していたね、我が救世主。……いや、桐生直哉君」

「うぉうっ!?」


 急に目の前に現れた左側だけ髪が長く、首元から懐中時計をぶら下げた少年。……暁颯真だ。


「急に現れるな! びっくりしただろうが!」

「これはすまない。私が『見守らせてほしい』と言ったから、気になったのだろう?」

「当然だ、どこまでいるのかわからなかったからな。気になっただけさ」

「そうだったか。……ふふ。私が女性だったらもっと気にしてくれたかな?」

「冗談はよせ。お前がバッドエンドを迎えた数多の『桐生直哉』の残滓だったとしたら、男のままでいい」

「……おっと。そこまで気がついたのか、我が救世主。すごい洞察力だ」


 俺のセリフに颯真は驚いた顔をしている。


「そのとおりだ、我が救世主。私は『プレイヤー』によってバッドエンドを迎えた数多の『桐生直哉』の残滓によって構成された存在なのさ。

 だからこそ……」

「『だからこそ、となった君を見守らせてほしいのさ』だろう」


 颯真のセリフを遮るように言ってしまった。


「すばらしいよ、我が救世主。もうそこまでわかっていたとは。――最高だよ」


 だが彼は歓喜に震えるように言う。そんなに良かったのか。


「まあ、いいさ……。颯真、もし俺が道を誤ったら止めてくれ。そうならないようにお前がいるのであるなら」

「もちろんだとも」


 颯真は微笑みながら言う。

 彼の望む自分の至れなかった結末あるいはこの世界が想定していない結末に至るためには、俺の力が必要であり、彼の力も必要だろうと思う。

 そうしているうちに、ホームルームが始まった。

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