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第2話

 そうして、俺と一晴は虹架市にあるライブ会場にやってきた。

 ライブハウスと呼ばれる場所であり、他にも地下アイドルグループがライブをやっているという。

 時間的にはステラノヴァはまだであり、余裕があった。

 ……そう言えば、前に『音速』の名前を持った地下アイドルと関わりがあったな……。

 疫病の流行りで長く続かなかったが、彼女たちと一度でも交流を持てたのは、幸せだったかもしないな、なんて……。

 なんで俺はこんなことを思い出したんだろうか。前世の記憶か?


「直哉氏、そろそろ『ステラノヴァ』のライブが始まりますぞ!」

「あぁ、わかった」


 ライブ会場へ入る俺と一晴。


「おっと、直哉氏。前に出すぎると面倒なことがおきますぞ」


 前に行こうとした俺を一晴が制止する。


「どうしてだ?」

「……いわゆるヲタ芸に巻き込まれるからね。俺からすればアイツラは邪魔だから」


 真面目なトーンで話す時は、一晴が感情的になっている時や、彼がふざけて話す場合ではないなと感じている証拠である。

 さっきの喋り方からするに、そのことに関しては怒りを示してしているようだ。


「忠告ありがとうな、一晴」

「いえいえ。お気になさらず、ですぞ」


 そうしてライブは始まった。

 もう一つ忠告として耳栓をしたほうがいいと言われたので、一晴から新品の耳栓をもらい、耳にはめている。

 雰囲気からしてステラノヴァの曲はアップテンポであるように感じた。

 セットリストの演奏が全て終わり、交流会が始まるらしい。

 一晴は真っ先にカレンのもとへ向かう。

 最推しだとかなんとか言ってたのを聞いたな。

 ……とすると、これは俺はミリィのもとへ向かうほうがいいか。


「……確かに。ミリィはそこにいる」


 スーツを着た顔のいい男があまり愛想が良くないような言い方をしてきたが、誰に対してもそんな言い方らしかった。


「はじめまして」

「はーい、はじめまして、ミリィでーす。よろしくね」


 そう。この選択が正しい。

 確か、ミリィは『月舘美玲つきだてみれい』という俺の通う学園の生徒会長を務めている女の子だ。

 しかし、今、俺の眼の前にいるミリィは、月舘美玲と雰囲気がまるで違う。

 本当の月舘美玲はどっちなのだろうか。


「お兄さんはこのライブは初めて?」

「はい。友人に誘われてきました」

「そうなんだー。……ってその友人はカレンが話してるあの子?」


 ミリィはカレンと親しげに話す一晴を指さして言う。


「ええ、そうです」

「そっかぁ。カズ君は面白い子だって言ってたねぇ。

 ちょくちょくアタシたちのライブに来てくれているし、カレンのことが好きみたいだし、カレンがいないとアタシやリーコに心配していることを話していたし」


 一晴のやつ。めちゃくちゃハマってるじゃねぇか。


「あぁ、そうだ。お兄さんはなんて呼べばいいのかな?」

「『ラビタス』でお願いします」

「ラビタスね、わかった」


 ミリィはラビタスと名乗った俺の手を握って、またライブに来てねと言った。

 ラビタスという名前は一晴考案で、俺が「桐生直哉」で、その「桐生」がある特撮作品に登場する物理学者を想起させるかららしい。……なんだそれ。

 そこで時間が来たらしく、スーツを着た男に「時間だ。離れてくれ」と、肩をポンと叩かれた。

 その後、カレンとの話を熱く語る一晴とともに浪速坂町まで戻ってきた俺。

 一晴と別れ、家に戻ろうと歩いていると、商店街の風景が急に映りの悪いテレビ画面のようになった。


「驚かせてすまない。我が救世主。どうしても、君と話がしたかったんだ」


 我が救世主だって?

 今日はいろんなことが起きるな。情報の整理が追いつかないぞ。


「救世主だって? なんかの冗談を言っているのか?」

「いやいや、冗談ではないさ。君は私にとっての、そして世界にとっての救世主なのだから」

「……わかった、詳しく話を聞きたい。俺は桐生直哉という。お前は?」

「私は暁颯真あかつきそうまという。颯真と呼んでくれていい」


 暁颯真と名乗った少年は、俺と同じぐらいの背丈で手には謎の手帳を持ち、首には懐中時計をぶら下げている。


「それで颯真。俺が颯真にとって、そしてこの世界にとっての救世主とはどういうことだ?」

「すまないが、今はそれを話すことはできない。ただ、これだけは知っていてほしい。

 君はこの場所において、君の行動一つで大きな変化が訪れるだろう。

 私はかつて、この地でを迎えてしまい、その存在をなかったことにされてしまった。

 だが、君ならば、この世界が想定していない結末を導くこともできるはずだ。

 そして、私がたどり着けなかった未来へと進むために、どうかその行く末を見守らせてほしい」

「そうか、わかった。颯真は特別な存在と俺を見ていきたいということか」

「認識は間違っていないが、私が至れなかった結末へ向かうための適切な提案もさせてほしい。それでいいかな」


 颯真の言葉に首を縦に振って答える。


「それじゃまた会おう。我が救世主」


 映りの悪いテレビ画面のようになっていた商店街の風景が元に戻り、それと同時に颯真の姿も消えた。

 その後、懐になにか膨らんでいるのに気がつく。

 取り出してみると、颯真が持っていた懐中時計と同じ形の懐中時計が俺にもあった。


〔……暁颯真。謎の少年……ということか〕


 いろんなことが起きた土曜日はこうして過ぎていった。

 土日が過ぎれば学園生活の始まりだが、果たしてどうなることやら……。

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