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第42話 ある青年達の青春

あの人はどうして、僕を見てくれないんだ。

こんなにも思っているのに…。

あの人の瞳に映るのはあの男だけだ。

ずっとそうだった。

それでもかまわない。

あの人のために…。

あの人が立つ舞台を彩る装飾を作り続けられるだけで幸せなのだ。

例え、その横に寄り添うのがあの男であっても変わらない。

そうさ。そうであるはずなのに…。


「ロイ!」


今日もあの人はアイツの名前を呼ぶ。


「ああ。なんだセリ?」

「次の舞台についての意見を聞きたくて…」

「聞くも何も、この劇団のトップはお前だろう?好きにやればいいんじゃないか?それより、フィオル!」


二人の仲睦まじい様子を遠目で眺めていたため、急に自分の名前を呼ばれてビクリと肩が揺れた。

その拍子に持っていた金づちが指にあたった。


「いたっ!」

「大丈夫か?」


血相を変えて飛んでくるロイに苦笑いを浮かべる。


「平気だよ。ちょっと、触れただけだから…」

「本当か?お前がいなきゃ、舞台に色はつかないんだ。気を付けてくれよ」

「分かってるよ。セリもすまないな」

「気にしなくていい。無理なら休んでもらっても…」

「必要ない。セリの舞台だ。穴をあけたくない。それより、フィオル。話の進捗はどうなっている?進んでいるのか?」

「もう、ほとんど仕上がっている」

「なら、見せてくれよ」

「出来上がったらな」

「ちぇっ!ロイのケチ。俺が主演なんだぞ!」

「だからだろうが…」


言い合っていてもどこか優しい雰囲気の漂うセリとロイの間に割って入る勇気はない。

昔はこんな事はなかった。二人とは同じ村で育ち、顔立ちがよく華のあるセリと文章を書くのが上手いフィオル。そして、手先が少しだけ器用な僕。三人で劇団を立ち上げて、世界中を回ろうと約束した。今は夢の途中。だから、僕達以外の団員はまだいない。


それでもかまわなかった。二人と一緒にいられるなら…。

それでも、ある時からセリへの想いは友とは違うものに変わってしまった。

そして、セリがロイを見つめる目は僕に向ける物とは異なるとも気づいてしまった。


その瞬間からこの関係は息苦しくてたまらない。

ロイが嫌いなわけではない。

それでも今は憎しみの方が勝っている。

セリを自分の物にしたいという欲望にかられる。


これではダメだ。ダメなんだ。


耐えきれずに立ち上がれば、四つの目が見上げてくる。


「どうした?」


ロイが心配性に語りかけてきた。


「そろそろ、じいさんの所に行かなくちゃ…」

「お前が凄いって言っていた職人の所か?」

「ああ…。この先、劇団を大きくするなら、セットを組み立てる腕をあげるべきだろ?」

「根詰めなくたっていいんだぞ。最近、あそこにばかり顔をだしてるじゃないか!」


二人に笑いかけて、逃げるように立ち去っていく。


「アイツ、最近様子がおかしくないか?やっぱり何かあるんじゃ…」

「ロイ!そっとしといてやれよ。アイツだって劇団の未来を思って、試行錯誤してるんだから」

「そうか…。そうだよな」


チラリと視線を後ろに向けるとやっぱり、寄り添う幼馴染二人の姿が目に入って、走るスピードを上げた。がむしゃらに目的地へと向かう間、何も考えが浮かばなかった。


「また来たのか?」


街から外れた小さな小屋の前まで来ていた事に気づき、ハッとした。


「じいさん…」


服の上下とも髪も髭も真っ黄色な老人が気だるそうに出迎えてくれた。

これが白色なら仙人のような風貌だが、目の前の老人はどちらかというとエキセントリックという言葉がよく似合う。さらに言えば、性別が本当に男かどうかもよく分からない。

しかし、僕がじいさんと呼んでも、反論してこない所を見ると、やはり、じいさんで合っているんだと思っている。


「お前も懲りない奴だ。弟子を取る気はないと言っているはずだ」

「分かってますよ。でも、来てもいいとは言ったじゃないですか!」

「客になるならと言ったんだ!金も持ってない奴は招いていない!」

「お金はないですが、お酒なら持ってきましたよ」

「たくっ!しょうがない奴だな。こんな老いぼれのどこがいいんだか…」

「すべてが素晴らしいんです」

「勝手にしろ」

「ありがとうございます」


最初にこの人の存在を知ったのは街で偶然見た髪飾りだった。美しい装飾に目を奪われた。

店員に聞けば、作者はエミストート・ユニアという人だと知り、ここを訪ねた。

何度も追い返されたが諦めたくなかった。少しだけでもいい。

この人の技術を手に入れたかった。

そうすれば、喜んでくれるかもしれないと思ったから。


バカだよな。僕には装飾師の才能はないのに…。


耳にカット音、やすりを削る振動が伝わってくる。

この家の主は行ったり来たり、せわしなく動いている。


「お忙しいんですか?」

「新しい仕事が入ったんだよ。悪趣味ではあるが、金はあって困るものではないからな」

「そうですね」


相槌を打てば、老人と視線が合った。


「僕の顔に何か?」

「いいや。お前さんも大変だと思ってな」

「どういう意味ですか?」

「何がだ?」

「言い出したのはエミス様の方ですよ?」

「ああ、この仕事を引き受けたのを後悔してるだけだ」

「ダメですよ。一度引き受けた仕事を放り投げたりしたら…」

「お前はカミサンか?」

「カミサンって何ですか?」

「妻っていう意味だ!知らないのか?」

「ああ…」

「やれやれ、ますます、若い奴らと話が出来なくなってきたな。俺もそろそろ、潮時か?」

「で、さっきの話は?」

「うん?そうだ。お前は髪色、変えてみたらどうだ?」

「また、話が飛んでます」

「お前なら緑とか似合いそうだな。良い散髪屋でも紹介してやろうか?」

「僕はこの色が好きなんですよ」


だって、セリが…。


「フィオルの髪は小麦畑みたいでホッとする。癒し系ってやつだな」


そう言ってくれたから…。

だから、変えられない。


でも、セリ…。違うんだよ。

僕は癒し系じゃない。君に浅ましい感情を抱いているんだから。

ああ、セリ…。

彼の青い瞳によく似た宝石に微笑みを浮かべた。

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