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第20話 伝説誕生!!

スカイドレイルの会場から少し離れた酒場。

賭けはそこで行われる。

集まるのは金に目がくらんだ奴ら。

そこに足を踏み入れれば、様々な視線が突き刺さってくる。


「嬢ちゃん。アンタが来るような所じゃないぜ?」


いかにもバカだが、腕っぷしだけは自信ありげな風貌の男が立ちはだかる。


こういう奴の相手はとってもめんどくさいのよね。


男の頭上には汚れた運釜が浮いている。

運釜にも個性ってあるんだ。


中身もほとんどない…。

ツキに見放されてるはね。

雫程度に残された運をなくせば、この男はどうなるのかしら?


「ここにいる意味なんて一つでしょう?」


不敵な笑みを称えれば、なぜか男の方は何も言わずに後ずさった。


懸命な判断ね。

意外と野生の勘は働くタイプなのかもしれない。


「誰に賭けるのかね」


案内人の男はそう尋ねてくる。


「いくらまで賭けられるの?」

「最高額は一億ピドルです」

「じゃあ、それで…」

「本当にいいんですか?」


その場がざわつく。


「バカな女がいたものだ」や「舐めてるのか」という言葉がちらほら聞こえるが、気には止めない。


「ここはスカイドレイル設立の頃からある老舗だと思っていたのだけれど、無礼な客しかいないのかしら?」

「申し訳ありません」


店の守衛たちが男達を威嚇すれば、誰もが押し黙る。


「ありがとう」

「では、もう一度お聞きいたします。誰にお賭けますか?」

「ではミカ・ハウェイ。彼が優勝するのにすべてを賭けます」

「本当によろしいのですね。負けた場合…」

「承知しています」


お金がある者は大金を支払い、無理な者は身を売るしかない。


私はお金がないから後者になるんだろうけど…。

一度死んだ身よ。今更怖い物なんて何にもない。

それに、この力を試すにも良い機会だしね。


「ではこちらのレディを最後に締め切らせていただきます。こちらへ」

「ええ」


レディファーストを重んじてくださるのね。

どうせ建前だけだろうけれど…。


最近、導入された大型スクリーンが木製の壁に不釣り合いな形でめり込んでいる。

こういうところは異国との交流が盛んであるメリットだわ。


映し出されるのは水中を催した大きな球体。

演者はその中で宙を舞うように演技を行う。

まるで妖精のように…。

決勝者は9人。男女関係なく行われる。

ミカは最後ね。


演技が始まった。

皆、優雅でまるで水の中を泳いでいるみたい。

歌い、美しい肉体美が披露されていく。


そして、最後から二人目。

絶対的王者の現スターの女性が会場に現れれば、一段と大きな歓声が上がった。


正直、スカイドレイル界には疎いのよね。

彼女の名前も覚えていない。

だが、酒場の多くが彼女にくぎ付けになっているのは分かる。


「お嬢さんには悪いが今回の優勝も女王様だ」

「女王?」

「彼女だよ」


ああ、スターの女性はそう呼ばれているのね。


でも、ミカを脅していた所を見ると、内心焦りを覚えているのかもね。

自分のスターとしての賞味期限が近づいているのを…。


「そうおっしゃるぐらいだから、女王様に賭けている方は多いでしょう?」

「大金を得るなら私のように勝負した方がよろしいんじゃない?」


そう嫌味を言えば、話しかけてきた男は眉をひそめて去っていく。


そして、ミカの番が来た。派手な装いで沸かした女王様とは違い、シンプルで美しい。

何より性別を超越したようなミステリアスさをまとう彼の姿に皆が押し黙った。


あれは…!

ミカの頭で美しい造形のバラが輝いていた。

私があげた髪飾り!

つけてくれたんだ。

今のには聖装飾物がついている。

私の手なんて借りなくてもいい。

彼の実力と運が合わされればきっと…。

チャンスはつかめるはず。

ミカ…。

貴方に幸運が訪れますように…。


空を駆け巡るような軽やかな動き、まるで遊んでいる人魚のように演技が披露されていく。

終わった時にはその場の誰もが息をのみ、静まり返っていた。


そして、どこからともなく拍手が沸き起こる。


決まった。


誰が見ても分かる。

新しいスターの誕生を…。


「優勝はミカ・ハフェイ!」


司会者の叫びと共に自分も勝った事を確信した。


「レディ!一人の勝利です。おめでとうございます」

「おい!それってオッズはどうなるんだ?どえらい額になるんじゃ…」


酒場の誰もが呆気にとられる中、案内人に促されて、奥の部屋と通される。


「全部で100憶ビドルです。すべて換金なさいますか?」

「いいえ。では50万ピドルだけ換金を…。後は小切手と金で頂けるかしら?」

「かしこまりました」


案内人の男は慣れた手つきで処理していく。


「貴方、本当はただの案内人ではないでしょう?」

「おや?どうしてそのように?」

「なんとなく…」


特徴的な髭を持つ案内人の男の運釜は風貌には似合わず、かなり溜まっている。


「もしかして、こちらのオーナーかしら?まあ、私には関係ありませんけれど」

「本当に愉快だ。私はレディのように楽しませてくださる方がたまに訪れるからやめられないのですよ。それに近くで金に群がる連中を見るのは酒のアテにはちょうどいい」

「趣味がお悪いわ。私はそんなに面白いかしら?」

「ええ~。恐ろしいほど運が強い。それを肌でピリピリ感じておりますよ。ですが、その運を使い果たさない事も願っております」

「肝に銘じておきますわ」


50万ピドルと小切手、数枚の金を受け取り、酒場を後にした。



この日、二つの伝説が生まれた。

彗星のごとく現れ、この後、スカイドレイルのトップの座を何十年と守り続けるレジェンドパフォーマーのミカ・ハウェイの名が知れ渡った瞬間。


そして、そのトップスターの誕生を的中させ、大金を手に入れた謎の女。

誰もが颯爽と消えた女の正体を知りたがったが、噂と尾ひれが付け加えられ、全容を掴む者は誰も現れなかった。その女の伝説は未来において、様々な物語の中で語られる事になるのだが、この時は当事者どころか誰も知る由もないのであった。

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