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第15話 美少年?との遭遇

本当に不思議だわ。


お母様を穢し、お父様を無残に殺した男達への復讐を心の中で思い描いた途端、奴らの居場所が分かった。さらにおかしかったのは騎士団の連中の頭上に小さな釜が浮かんでいるのが見えた事だ。

美しい青色の砂が揺らめている。けれど、それぞれに注がれている量は違う。


隊長と呼ばれた男の砂は真ん中より少し上でさらさらと上下していた。

その瞬間、まるで何かに導かれるように奴らの頭上に雷が落ちたのだ。

奴らを苦しめたいと願ったからかもしれない。

まるで空を操るように奴らは動かなくなった。


あれが幸運伝説で語られる運釜なの?

実在していたなんて驚きだわ。


しかし、真実は重要ではない。

また、その運釜の中に収められた砂の量を自由自在に操作できる自分にもそれほど驚かなかった。

けれど、実験したいという欲求も湧き上がる。本当に運を操るする力を得たと言うなら、確かめなければと思った。


だから、奴の命は奪わずに砂を空にしてみた。


そして、どのような末路を辿るのか確認したかった。

奴を気絶させ、その胸にその悪行を記し、道端に放り出したのだ。


するとどうだろう。運よく現れたストレイト侯爵に連行され、数日も経たずに処刑された。


こんな、愉快な事がある?


お母様を穢した連中の悪行が真実となって帝国中に広まりながら、まるで奇跡でも起こったように奴は相応しい汚名をその身に受けて、この世から去ったのだ。


まだ疑心暗鬼ではあるけれど、奇跡の力を手にしたと確信した。

この力を使えば、ルシアを死に追いやった者も同じ目に合わせられるかもしれない。

希望が胸に光った。それは復讐という炎。


妹の痛みを絶対に分からせてやる!


「本当に運を操る力を手にしたのなら、ルシアの死に関与した人間の所まで連れて行ってよ」


けれど、静けさが広がるだけだ。


やっぱり、運を操る力を手にしたと言うのはただの幻なのかもしれない。


そう思った矢先、お腹が鳴った。そう言えば、焼け出された後から何も食べてはいない。

どこかで食べ物にありつけるかしらと思った。

しかし、残念な事にお金がない。


食事をとるのは難しいかもね。

せめて、小腹に何か入れたいわ。

この際、果物でもなんでもいい。


そう考えていると、どこからか、ミカンが降ってきた。


確かに果物が食べたいとは思った。心にとめたのは本当だ。

だからってミカン一個というのは運がいいのか悪いのか微妙なラインだわ。

でも、何もないよりはマシよね。


皮をむき、熟した実を口の中に放り込めば、甘い汁が舌の上を染みわたっていく。


「ああ、美味しい」


人生の中で食べたミカンで一番、みずみずしいと思った。


その瞬間、一気に疲れが押し寄せてくる。

疲れた。眠りたいわ。


この際、野宿でもいいかもしれない。

でも、どこかでお金を調達するべきだとも頭をよぎる。


今の私は一文無しだもの。


こういう時に役に立つのはもしかしたら賭けかもしれないと思った。

ギャンブルとは無縁だったのに…。


でも、運が味方してくれていると過程するなら、もしかしたら大金をすぐに手に入れられるかも。

どんどん、自分の頭がおかしくなりつつある気がした。

でもやめられない。

正常心と欲望の間を行ったり来たりする。


そもそも、ここから一番近いカジノでも結構な距離がある。

たどり着くまでは一苦労よね。


そんな事を考えていると馬の悲鳴が耳をかすめた。

その声の方へ向かうと、馬車が木にぶつかり、粉々になっているのが目につく。


その壊れた木の中から、はい出すように一人の美しい少年か、もしくは少女が姿を現した。


美少年?と思しき人物は抱えていた鞄に視線を移す。

中に詰め込まれた煌びやかな衣装類が埃まみれになり破れている。


「ああ!どうしよう。大事なステージがあるのに!」


美少年は大声でわめいていた。


「ちょっと!どうしてくれるんだよ!」


怒る美少年とは裏腹に馬とそれを引いていた男は一目散に逃げていく。


「やっぱり、正規の馬車に頼むんだった」

「あの…大丈夫?」


落胆する美少年に思わず声をかければ、微笑み返される。


「すみません。騒がしかったですよね」

「その衣装は…?」

「ああ、スカイドレイルに出ようと思って…」


スカイドレイル…。


それは帝国内で盛んなエンターテイメントの総称だ。一昔前に流行ったサーカスや舞台劇、ミュージカルと言った要素を散りばめ、スポーツ化したと表現されている。

設置されたステージ上で空中を舞ったり、歌ったりして採点を決める娯楽の一つ。

各地で大会が催され、優勝者には多額のお金が入り、人気スターになれる。

ある者達にとっては夢の世界。


「近くで大会があるの?」

「はい。その…ここから近い街で…。でも、もうダメだな」

「どうして?ここからなら大会のある街まで歩けばどうにでもなるでしょう?」

「そうなんですけど、衣装がこれじゃあ…」


肩を落とした美少年はうなだれて、へたり込む。


「スカイドレイルで優勝すれば、妹の治療代が余裕で手に入るのに…」

「妹さん病気なの?」

「はい…って、別に命に関わるってわけじゃないですよ。だけど、疲れやすいのか一日の半分は寝込んでる。手術すれば、症状が和らぐかもって医者は言ってるんけど、お金が足りなくて…」

「そう…。優しいのね」

「家族を助けるのは当然だ。僕は運動神経だけは自信があるんです。だから、可能性はあるかなって思ったんだ。母さんだって応援してくれてるからこうして衣装も作ってくれたのに…。でも、ダメだな。僕っていっつもそうなんだ。華奢なせいなのか、畑仕事もまともにできないし…そのせいで父さんにはいつもぶたれてる。なんとか、役に立ちたいんだ。僕も何かできるんだって!あっ!すみません。初めて会った人にこんな話…」


大きなため息をつく美少年に何とかしてあげたくなった。


「いいのよ。気にしないで。ミカン食べる?」

「季節外れですね。ミカンだなんて」


針と糸があれば、なんとかなるかもしれないのにと思った。

すると、太ももにチクりとした痛みが走る。ドレスのポケットに手を突っ込むと糸と針が入っていた。


こんな事ってある?


でも、これも何かの縁なのかもしれない。


「貸して。縫ってあげる」

「えっ!」


取り出した針に糸を通し、破れた部分を素早く縫っていく。


「すげえ~。お姉さんお針子なんですか?」

「違うけど、縫うのは得意なの。こんな感じでどう?」


煌びやかな衣装を広げてみる。このデザインだとすごく体のラインがでそうな気もするけれど…意外とこういう方がウケるのかも?


「ありがとう。実は僕ってすごく、ツイてるんですね」

「嬉しいわ。じゃあ、頑張って」

「待って。お姉さん名前は?僕はミカ…ミカ・ハルウェ」

「良い名前ね。私は…」


そこで口をつむぐ。

私は何者なのか?


「また会えたら教えてあげる」


そう言って苦笑いを浮かべた。

シェリエルとは名乗れなかった。

家族を守れなかった女の名前なんていらない。


そんな風に思いながらミカに背を向け、去っていく。


ミカ…少し、ラルフに似ていたわ。

天真爛漫な瞳をした綺麗な子。


そうだわ。ラルフは無事かしら。


その足はおばの屋敷へと向かっていた。


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