目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第13話 目覚めと弔い

焦げ臭さを鼻にかすめて、あの惨劇が真実だと思い知らされた。

そして焼け落ちた屋敷後の中に横たわっていたのに驚く。

まだ、所々煙が立ち込めている。


けれど、この身は怪我一つない。

健康状態そのものだ。

ただ違う事と言えば、握りしめた手の感触だけ。

先ほど、真っ黒に染まり、灰となった家宝の残り香を探すよう呆然と佇んでいた。


18年を過ごした我が家は一瞬のうちになくなってしまった。

弟は…ラフルは無事に逃げられたのかしら?

きっと、小侯爵様が何とかしてくださったと信じたい。


問題はこの崩れた中からルシアとお母様、お父様を見つけられるかどうかね。


けれど、それは杞憂に終わる。だって、突風に巻き上がった柱の下から煤に塗れたルシアとお母様、そして、お父様の胴体と頭部が並ぶように出現したから。


こんな簡単に?

何日もかかると思っていたのに。


確か、ルシアと両親は別の部屋で…。

そう考えて、お母様を穢し、お父様を殺した連中の顔を思い出して、吐き気と怒りがまた、込み上げてきた。


許せない!

見つけて、相応の罰を受けさせてやりたい。


ルシアは煮えくり返る感情を抑えて、ルシアと両親を掘り起こした。

けれど、三人も運び出す力はない。

辺りを見渡すとどこからか逃げ出した牛が目に入った。


牛?しかも牛車…!


一体、どこから逃げ出してきたの?

この辺りでは牛車は珍しい。


でも、これは渡りに船だわ。

全く、とてつもない悲劇に見舞われているのに神様が自分に味方してくれている気にさせられる。

ある意味で自分の都合のいいように物事が動いている。


その運は家族が亡くなる前に発動してほしかったわ。


だけど、嘆いている暇はない。

この運もいつまで持つか分からないもの。


華奢なルシアを最初に運び、お父様とお母様を荷台に乗せて、牛に運ばせた。


意外と自分は力持ちなのかもしれないとわね。


不思議な事にマーシャン家の墓までの道中は誰にも会わなかった。

仮にも歴史だけは長く、土地に根付ているマーシャン家の屋敷が燃えているというのに、誰の姿もないなんて、いい事なのか悪い事なのか…。


騒がれても面倒だし、これは好都合なのかも?

三人を墓の前に並べても誰にも文句は言われないもの。

まさか、生前に立てたそれぞれの名前が書かれた墓石をこんなに早く使う羽目になるなんて…。


もちろん、シェリエルの…私の名が刻まれた物もある。

しかし、自分が眠るのはもう少し先だ。


みんな、泥まみれね。

せめて、新しい服…体を洗い流してあげたかった。


そう思ったら、なぜだか、大量の雨がその身に降り注いでいた。

まるで、三人を洗い流すかのように数分の出来事だった。

そして、再び、何事もなかったかのように晴れやかな空が広がっている。


全く、訳が分からない。


さらに不思議なのはどこからか飛ばされてきたドレスと燕尾服が牛の角に引っ掛かっている事だ。

まるで、三人に着せろといわんばかりに…。


でも、考えている暇はない。急いで、三人に服を着せた。

両親や妹は眠っているように穏やかな笑みを称えている。

急いで、土を掘り返そうとすると突然、牛が暴れ出した。


「あっ!」


状況が飲み込めないうちに牛は一通り、そのあたりを駆けまわった後にどこかへと走り去っていく。

残されたのは牛の鍛え上げられた後ろ脚によって掘られた土の穴だ。


掘る手間が省けてしまった。

さらに放置され、忘れ去られていた棺桶の山すら視界の隅に捉える。


本当にどうなってるのよ。

私の欲しい物が目の前に出現しているようだわ。


驚きを通り越して恐怖すら感じるけれど、疑問を投げかけている暇はない。


急いで妹と両親をそれぞれの棺桶の中に収め、土の中へと押し込める。


「ごめんなさい。見送るのが私だけで…」


司祭様の祝福すらなく、ひっそりと埋められるなんて普通ではありえない。


埋め直した三人の墓石を見つめる。

そのそばには近くで積んだ花を供えた。


貴族の長としての才には欠けていたけれど、穏やかだったお父様。

いえ、そういう風に演じていただけなのかもしれない。

そのお心のうちをもう少し知れたらよかった。

厳しかったけれど、子爵夫人としての心構えは素晴らしかったお母様。

そして、性格が真逆で意見の対立もあったけれど可愛い所もあったルシア。

私の妹…。


未だかつて、感じた事のないエネルギーが自身の体の中で燃えているのに気づく。


先ほどの雨で出来た水たまりに自身の姿が映り込んだ。

けれど、それは知っている姿ではない。

金髪だった髪は灰色に染まり、瞳も色をなくし、濁っている。

美しい妹と似ている所は何一つなかった。もはや別人だ。


ああ、そうか。

シェリエル・フォン・マーシャンもあの屋敷で死んだのね。

ここに立つ女はきっと彼女の怨念が作り出した幻。

妹を…両親を死に追いやった連中に血の雨を降らせるために漂う悪霊。

いいじゃない。

家族を守れなかった女にはお似合いだわ。


だから、待ってて。

この仇は必ず取るから。


まずは、お父様を殺し、お母様にあらぬ情を抱いた連中。

幼いラウルにすら、襲い掛かろうとしたクズどもから始めましょう。

まだ、近くにいるはずよね。


風になびく髪は神話の中の妖怪のようにたなびく。


声が聞こえた。連中の笑い声。

やっぱり、近くの森の中に奴らの気配がする。


本当に運が味方してくれているのかしら?


でなければ、おかしいじゃない。

欲しいと思ったものがあっさりと出現するなんてね。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?