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7-⑥

 彼らの言う通り、お客様は誰もいません。

 片付けのために楓さんは奥へと行っているようで、ホールの状態に気づいていないようです。そうです、楓さんが気づいたなら、もうすでに間に入っている筈です。助けに来てくださっているはずです。


 ……罪を犯した私を?


「あ……」


 そうです。

 私は、助けられるような資格なんてありません。


 罰です。


 旧知の仲である大智君を傷つけ。

 親友と言ってくれる楓さんを騙し。

 無駄な意固地で旦那をないがしろにした。


 私への、罰です。


「あーあ、泣かしちゃった。怖がってんじゃん」

「そんなつもりなかったんだけどなー。ただお姉さんが可愛くてさー」


 泣くつもりなんてなかったのに、私の頬からは涙が流れ続けています。どうしてでしょう。私の涙腺は、いつからこんなにも脆くなってしまったのでしょう。


「……こう言っちゃ悪いけど。お姉さん可愛いから、その涙、男そそるだけだよ?」

「!??」


『やべぇ、お前の泣き顔そそられる』


 頭の中で、大智君に言われた言葉が木霊しました。


「……ハハ」


 ああ、そうか。

 薬を盛られて酔ったから、頭のどこかで私は全部悪くないと思っていました。

 でも、こうもという現実を突きつけられると、自分の中でも言い訳の仕様なんてありませんね。


「お、どうしたの? もしかして気分変わったとか?」


 一つ笑って、涙を拭い微笑む私に若者たちの目が期待に輝きました。

 そんな彼らに私は笑顔を広げ、レジから身を乗り出し、台の上に置かれている手を下から掬い上げるようにとって私の胸元に近づけました。


「え、何? もしかしてお姉さん超積極的?」


 彼らは、いかがわしい想像をしたのでしょう。若いからでしょうか、表情でとてもわかりやすいです。私は微笑みながらさらに身を乗り出し、あと数センチで頬に口づけれそうなところで止め、囁きました。


「防犯カメラから見たら、まるで私、胸倉掴まれて脅迫されているように見えるでしょうね」

「え……」


 2人が咄嗟に私の後方にある防犯カメラのレプリカに視線を移しました。その姿に私は微笑みを崩さぬまま「大人を舐めてはいけませんよ」と告げて手を離し、一歩後ずさって――


「キャー! 嫌―! 店長! 楓さん! 助けてー! 警察、警察―!」


 力いっぱい叫ぶ私に2人は「は!?」「え? え?」と戸惑っていましたが、後ろの扉から「美愛ちゃんどうしたの!?」と血相を変えた楓さんが出てきたのを見て、このままではどうなるかという展開が想像できたのでしょう。何やら蒼い顔をして「おい、やばいって」「くっそ、出るぞ!」と慌てて入り口から飛び出していきました。そのまま走り去っていくのを見送った私は再び目尻に涙を滲ませ楓さんへと振り向きました。


「楓さん……っ、私、私……」

「どうしたの? 何があったの? あの二人の慌てよう……ちょっと、もしかして、襲われたの?」


 楓さんの言葉に、私は頷けもせずにただハラハラと涙を流し顔を覆います。その手は、我慢していた分勝手にカタカタと震えてくれました。それを答えとみなした楓さんは、黙って私を抱きしめてくれました。


「まさかこんなことが起こるなんて……次からは目を離さないようにするからね。ごめんね、美愛ちゃん……怖い思いさせて、ごめんね……」


 楓さんの言葉を聞きながら、私は首を横に振りました。楓さんは悪くないのだと伝えるように。

 口角が上がってしまう顔を、両手で、しっかりと隠してるのがばれないように。


 私は、悪女なのです。


 どんなことも、自分にとって都合のいいように利用してしまいましょう。





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