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7.世間や社会がそうであるように、悪いことは新しい悪いことに塗り替えられます。

 楓さんに話した翌日、楓さんに進められた精神科に通いました。勿論旦那には内緒で、子どもたちも保育園や学校に行ってる時間帯に。私の症状や気持ちにちょっと色を付けて話したら、何故か先生の前で涙が流れました。その様子を見て、先生は「苦手じゃないと思い込んでいるだけであって、パニック障害を引き起こしかねないほど男性に対し苦手意識を持っている」といった診断をされました。そして、すでに鬱症状が出ているとのことで、私はもう仕事を辞めていますが、先生から診断書を受け取れたのでそれを保育園に出すことで子どもを通わせることが可能だとも言われました。

 先生から言われた「貴女は自分の精神的苦痛を自分自身で癒す力がある。克服する力がある強い女性よ。今までいろんな人を見てきたからよくわかる。ただ、そのためにもう一人の自分を作っているんじゃないかしら? それをやりすぎると貴女は壊れてしまうから、壊れないように気をつけなさい」という言葉は、未だによくわかっていませんが、ひとまず私は一人でなんとかできる強い心を持っているからまだ大丈夫ということなのでしょう。

 とにかく、保育園のことに関しては悩んでいたので、非常に助かりました。昼間に動きやすい、というのは主婦にとって貴重なのでとても助かります。それにしても、私が思っていたより重い症状を言われて驚きました。

 大げさ目に話したのが功を奏したのでしょうか?

 ひとまず、精神科で言われたことを全て報告すべく、その2日後に私は楓さんに会いました。


「大智にも話しておいていい?」

「え?」


 穏やかな雰囲気があり、女性の話し声で花が咲いているような明るいカフェで、私の話をすべて聞いた楓さんがトーンを少し落とした声で言いました。思わず驚いて聞き返すような声を上げてしまった私に、楓さんは辛そうに口角を上げました。その、無理矢理としか思えない笑顔に、私の心臓が鋭い痛みを訴えました。


「少し前までは、まるで親友のように仲が良かったでしょ? だけど、突然こんなことになって……しかも、前会った時に完全に拒絶されて……大智、滅茶苦茶意気消沈してて……見てて、可愛そうなほどだったの」


 段々と言葉は尻すぼみになり、最後には涙声になっていく楓さんの言葉に私は呼吸を一瞬忘れました。でも、黙っているわけにはいきません。私は、なんとか言葉を返そうと口を開きました。


「そう……だったんですね。……本当に、ごめんなさい……私……なんて言ったらいいか……」


 正直、いい気味です。

 存分に自分の行いを反省すればいいと、どこか冷めた気持ちで覆いつくされた私がいました。

 だけどそんな表の私を出してはいけません。それでは今までの苦労が全て水の泡です。私は自分にしっかり裏の仮面をかぶせて、楓さんに負けない涙声で言葉を振動させました。幸い、大智君と仲良かったことや楽しかった思い出を思い返して、あの時の純粋な日々にはもう戻れはしないのだと思うと涙は勝手に溢れてくれました。

 そんな私に、楓さんはハッと我に返ったように青ざめました。


「ご、ごめん! そうだよね、一番辛いのは、美愛ちゃんだよね……!」


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