きつく閉じた目頭から伝う涙を舐められる感覚がありました。そのまま大智君は、味わうように目元を口づけます。お洒落のつもりしかなかったから、私の目元はメイクのアイシャドーだらけです。舐めるのには絶対適していないし、身体にも悪いことでしょう。だけど彼はそれを美味しいキャンディかのようにじっくりと舐めて、そして、私の震える瞼にも口づけます。その温もりは愛しさが籠っていました。
「本当はあかんことやって俺もわかってる。でも、やっぱ、両想いだったら……一回はしたいやん」
「それは、多分、普通に、最低」
「わかってる。けど、もし、高校時代、お互いの思いがわかってたら……してたやろ?」
それには、私は否定をしきれませんでした。ただ、ずっと、胸がざわざわしていて、言葉が上手く紡げなかったのです。私は、覆いかぶさってくる彼の胸板を思わず強く押しました。やっぱりだめ、と言いたかったのです。だけど、それは、言葉にすることなんて出来ませんでした。妙に、呂律が回らないのです。
「これ自体を過去の思い出にして、またいつも通りに戻ろう」
いつも通りに。
本当に、戻れるなら。
なら、一回だけなら――
今までの楽しい思い出を大切にしたい私は、押している力を弱めてしまいました。彼は、それを、私の一瞬の迷いを、OK、と、捉えたのでしょう。
「ありがとう」
彼が私の服を脱がせました。半ば強引でしたが、私が身を捩ったので破れずにはすみました。下着だけになってしまった私は、急に羞恥心が押し寄せました。身体が震えて、目も開けられなくて、口元にぎゅっと握りしめた拳を当てました。
この時、私は自分の感情を理解しました。
恐怖、だと
「あ、やだ」
「もうダメ」
下着もずらされて、私はまた涙を流しました。
どうして私はここに入ってしまったのだろう。
それまでの記憶がどうしてないのだろう。
ああそうだ、みかん酒はアルコールが強いのに一気に飲んでしまったからだ。
でもそれだけで、思考が上手く働かないくらい、ここまでの記憶が残らないくらいにまでなってしまうのでしょうか?
怖い。
確かに私は大智君を好きだった。
でもそれは過去。
今大好きなのは、旦那で、家族で。
私に覆いかぶさる人は、ただ、ただ、
ただの、大事な、友達で――
「やだ、やっぱりやだ」
「恥ずかしがんなって」
「そうじゃな……っ」
「やべぇ、お前の泣き顔そそられる」
「っ……ぁ……やぁだぁ……!」
泣きすぎて
声が上手く出なくて
嫌がりたくても手足に力が入らなくて
私は簡単に組み伏せられてしまって
意識がハッキリして言葉がいつも通りに発せられるようになったのは、行為が全て終わった後でした。