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4-②




 ――気づけば、私たちは、個室に居ました。



 どこの個室、なんて、真っ白なシーツがあって、ちょっと固いベッドのある部屋と言えば大体の方は予想がつくことでしょう。


 ああ。


 嫌がらなかった私が悪いのでしょうか。

 ええ、きっと、そう、悪いのでしょうね。

 ベッドに腰かけてから動けない私は、上着をゆっくりと脱がされながら目を閉じて思考していました。為されるがままの人形のように私は何も抵抗をせず、ただ、過去の思い出を反芻していました。


 教室で席が隣り合わせになった時、とても眠たくて仕方がない授業がありました。大体の授業を真面目に聞く私でも耐えられず机の上に腕を枕にして寝そべって、なんとなく大智君の方を向いた時。パッ、と目が合いました。大智君も同じような姿勢で私の方を見ていたのです。

『なんだ、田辺も寝る時あるのな』

『……たまたまだもん』

『だもんっ』

『何?』

『いや、可愛いなって。そんな喋り方する時あんだ』

『……たまたま出ただけだも……』

『だも?』

『……』

『だも、ん-、だろ?』

『もう、やだぁ』

『ウハハハハ!カーワイッ』

 恥ずかしくて腕枕の中に顔を埋める私の横で大笑いする大智君。その笑い声が大きくて先生に滅茶苦茶怒られて先生が読み上げる筈だった小難しい文章を延々に読まされる羽目になっていました。その横顔が助けを求めるようにちらりとこちらを見るたびに、私は舌を出して笑っていました。


「腕、挙げて」


 思い出より低くて大人びた声が目の前から聞こえました。目を開けた私は、無意識のまま言われたとおりに行動していました。


「俺の肩に、手、置いて」

「ん……」


 挙げた両手をそのまま目の前の彼の肩に置く。すると、私のシャツのボタンが外れて、前が開けました。昔の思い出とあまり変わらない顔立ちの男の手がボタンをはずしたシャツが、私のお腹らへんの素肌でこすれます。それが妙にくすぐったく感じてしまって、私は顔を上げました。

 目が、合う。

 吐息が、ほんの少し、混ざり合う。



 ――……こんなことは、昔もありました。

 その時は2人とも制服を着ていて、文化祭の準備をしている時でした。

 7人ぐらいで看板の色塗りをしている時に、横で真っ赤な絵の具のペンキが倒れて、それを避けようとした私は後ろに大智君がいるのに気づかず思い切りぶつかりました。

『きゃあ! ごめん!』

『うお! 吃驚した!』

 お互いぶつかって悲鳴を上げて、お互いの顔を確認した時に相手が誰かを認識しました。ぶつかったがために、顔を確認する行為はもう少しで唇が触れあいそうなほどの距離で。

『あ……』

『あ……と……大丈夫か?』

『う、うん』

『『わー!大智が女子に抱き着いてるー!』』

『バッカ、ちがっ』

『わわ、ちょ、それより床がー!』

『え? うおわ! ちょ、誰か雑巾! 看板が真っ赤になっちまうぞー!』


 他の人の囃し立てる声で慌ててお互い離れたものの、少し動けばペンキの水たまりが広がり危うく看板にまで到達しそうな状況に大智君が周りに声をかけ、片足を水たまりに突っ込みそうな私を再び引き寄せてくれました。あまりにも阿鼻叫喚の状況だったので本当に私が抱き寄せられている時は誰も何も言いませんでした。だからでしょうか。その時の私は、大智君の温もりや男の子らしい香りに、1人大げさなほど心臓を五月蠅くさせてしまったのは。


 ――でも、その思い出を今の状況と一緒にするのは変ですよね。

 だって、その時は彼は私をペンキから守るのに必死で、そこに邪な考えなんてものはなかったのですから。今目の前で、雄の匂いを体中から発しながら私の身体を舐めまわすように見る獣とは、大違いなのですから。



「やべ……エっロ」

「開けただけなのに?」

「着やせタイプなのな。胸、何カップ?」

「D」

「最高かよ」


 下着の上から、彼の手が私の胸に触れる。

 最初は指先で形をなぞって、それから、包むように。

 別の手は、私のワイドパンツをまくりあげていました。ヒラヒラとして大きさにゆとりのあるズボンだったこともあり、簡単にお尻付近までまくることが出来ていました。下着に触れる指先を感じながら、そうえいばそこそこおしゃれするためにと、形から入る私は下着もお洒落なものにしたなと思い出しました。旦那とする時の勝負下着ではなく、女友達と遊ぶ時用のお洒落用。それが、今、彼の前で露わになりました。

 何故か、私は、震えました。

 自分でもよくわからないくらい、手指の先が震えたのです。


「やべ、もうきつい」


 苦しそうに息を漏らしながら、大智君がズボンを脱ぎ棄てました。

 露わになる彼の全てに、私はぎゅっと目を閉じました。


「目、開けて」

「無理」

「今更止まれとか、俺も無理」

「じゃあ、閉じさせて」

「……まぁ、いいや」


 ハァ、と、言葉として聞こえるくらいに彼の息遣いが荒くなりました。そして、私は少し硬いベッドの上に背中を打ちつけました。この表現が恐らくあっていると感じるくらいに、強く、押し倒されました。痛くて、悲しくて、私は涙が零れるのを感じました。


「可愛い……」


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