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3-②


「次はどんなとこ行ってみたい?」


「いつもお酒だから、今度はお昼から喫茶店ランチなんてどうかしら。大智君とリサーチして一番おいしいお店に楓さんと行きたいの」


「それはつまり……俺とは、外れでもいい、と?」


「だって最早旧知の仲でしょ? それに学生時代以上にこんなに出かけて会って喋っていれば、旦那以上に遠慮がなくなっていくというものよ」


「へぇ、旦那以上……」




 私がなんとなしに零した言葉に、ふと彼の口が止まりました。心なしか、纏う空気もいつもとは違う雰囲気となっていました。


 それに疑問を持ちましたが、ほろ酔いの私は気にせず美味しい焼き鳥に舌鼓を打ちながらお酒をゆっくりと味わっていました。とろりとした濃厚なみかん酒が舌を甘やかすように包み私の顔はだらしないほど緩み切っていたことでしょう。今日は大当たりのお店だったようです。メニューに視線を落とせばキッズ用もありますし、旦那の好きなユッケもありました。今はもうお腹いっぱいで入らないけれど、私の大好物なチーズ盛り合わせ&スパイスポテトというものもありました。これは一度家族で来てもいいかもしれない、とメニューを見ながら焼き鳥を頬張るのに夢中な私は彼の視線や沈黙に暫く無関心でした。


 けれど、黙ってから数分経った頃、さすがに私は違和感に気づきました。今までご飯を堪能するための沈黙はあれど、じっと思い悩むような沈黙はありませんでした。お肉がすっかりなくなってしまった串を皿の上に置きながら私は顔を上げました。


 それを私は少し後悔しました。


 どこか旦那に似た表情で私を見つめる彼に、心臓が妙な動きをしたのです。


 懐かしいような、どこか切なさで苦しくなるような自分の心臓の動きに私は視線を思わず外しましたが、それはとても失礼なのではないかと恐る恐る視線を戻しました。けれど視線を戻すだけでは彼の視線に耐えれず、私はお酒の力を借りることにしました。彼から視線を外さぬよう、じっと見返しながら「どうしたの?」と軽く首を傾げました。我ながら自然だ、と自負しましたが、一連の私の行動はかなり違和感だらけで滑稽だったことでしょう。だからでしょうか。いつものように私の変な動きに「どしたの? 超変やん」と笑いながら突っ込んでくることはなく、彼は意を決したように鋭い視線をこちらに向けたまま、口を開きました。




「あの時、好きだったんだけど、知ってた?」




 まさかの告白に、私は喉を通ろうとしたみかん酒を上手く胃へ届けることが出来ず咳き込んでしまいました。 

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