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2-②

 さすが、人生というものは不思議です。

 楽しい時間というものは、恐ろしい程あっという間に終わってしまいます。

 行きは電車、帰りはタクシーというちょっと贅沢な交通機関を使って帰ろうと決めていたので、私たちはお互い頬をちょっとした紅色に染めさせながら、太陽の明るさにも負けないかのごとき笑顔を輝かせて別れました。子どもより、大人が楽しんだといっても過言ではないかもしれません。お互い乳児は祖父母に預けていたことも功を奏したのでしょう。思う存分飲んで、喋って、騒いで、笑って。

 子育てが始まって以来、初めての、とても楽しい一日でした。


「また今度」

「ええ、また」


 そういった言葉を交わせる嬉しさも噛みしめて、私たちは自分たちの家へと送ってくれるタクシーへそれぞれ乗りました。街灯の明かりが入らなければ暗い車内は、今日一日の終わりを告げているようで少し寂しさもありましたが、また次もあるとわかっていると自然と笑みが零れていました。

 それほどに楽しくて、かけがえのない一日だったのです。

 そのままタクシーに揺られ、眠った旦那と子どもの温もりに私もうつらうつらとし始めた時でした。寝ないようにとWeb小説でも読もうかとスマホを握りしめていた手が光りました。メッセージの着信を知らせる光にふわっと意識を浮上させた私はすぐに確認しました。

 米田君――いえ、大智だいち君から、メッセージがきていました。


『まるで、学生時代に戻ったみたいで最高に嬉しい。マジで今日超楽しかった。お互い家族ぐるみで仲良くなったことだし、今度お互いの相手に了承得て2人で会えたら嬉しいな。昔話に花咲かせようぜ』

『私も嬉しい。是非とも喋りたいから予定を立てましょう。でも、それはちゃんとお互いのパートナーに許可を取ってからね』


 すぐにそう返した私は、まさか、このやりとりからこうした家族での純粋なお付き合いはここで幕を閉じ、誰もが経験をしえないような壮絶で、ドロドロとして、そして、心が常に踊り続けるような人間ドラマの幕開けになるとは思いもしませんでした。 


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