服用する薬が変わって二ヶ月以上が経っている。
その間、ジークに一度目のような突発的な発情は起こっていない。
だが今も続く夜の奇行を発情と見るなら、ジークは二ヶ月、不規則に夜のみではあるが頻繁に発情しているということになる。
アンリはそろそろ薬を変えてみるかと考えていた。……繰り返される状況に飽きてきたためとはあえて言うまい。
ちなみに、霧霞の花の蜜と青い薔薇を使った薬で作った媚薬は品質もよく飛ぶように売れた。
材料が貴重なのもあってかなり高値に設定していたが、世間にはそれだけ好き者や不埒な者が多いのだろう。それでも販売に回したものは即日完売という人気商品になっていた。
高揚感は強く出るのに、意識はきわめてクリアなまま保たれるのだ。感度も精力も上がり、持続性も高い。得られる多幸感もほどよく続き(要は賢者タイムの訪れが緩やか)、そのくせ中毒性はなく、対応に困るような副作用の報告も今のところ受けていない。
特にプライドが高く、理性的な情事を好むタイプに受けが良かった。客に言われた言葉を借りれば、〝品のある媚薬〟――その一方で、不能で悩んでいる者に効果があったことも大きかったらしい。
経口摂取の他に、潤滑剤としての使用でも作用するため、手軽さもある。アンリも一度治験として目の前で知り合いに使わせてみた(こちらは合意の上)が、確かに悪くない仕上がりだと自分でも思った。
* *
その日の就寝時、アンリは寝室にその媚薬をひと瓶持ち込んでいた。
一つ、試してみたいことが浮かんだからだ。
今夜ジークが来るとは限らない。
だが昨日、一昨日と来ていないため、そろそろ来る頃だろうことは予想がつく。
アンリはナイトキャップを被りながら、ベッド脇のサイドテーブルの上に置かれた小瓶を見遣って僅かに目を細めた。
あれほど意識が保てるのなら、ある意味
もしそうであるなら、あの酩酊状態のジークを途中で正気に戻すこともできるかもしれない。
まぁできるできない以前に、そんな状態の相手に使ったらどうなるのか、製造者として確認しておくのも悪くないと思ったのだ。
……もちろん、単純にそれも一興と思ったことも否定はできないが。
* *
「っていうか……アンリ先生が…………なんて本当なんだろうか」
眠りに就く前、ジークは自室のベッドに寝転がり、すっかり見慣れてしまった天井を見つめながら、ぽつりと呟いた。
先日の修練の日、ジークが
何事にも「まぁいいか」と基本へらりとした笑顔であまり動じない印象のカヤが、一瞬「この子は何を言っているのかな」という顔をしたのだ。少なくともジークにはそう見えた。
実際にはカヤは「そ、そっか」という心境だったのだけれど、魔法の話だと思っていただけに
ジークはもちろんすぐに弁明をした。
性欲がないと言ったのは、要するに淫魔の血が落ち着いたのではないかと言いたかったのであって、何も
「俺、できれば少しでも早く
「ああ、なんだ、そういうことか。突然なんの告白かと思っちゃった」
「すみません、なんか」
恥ずかしいくらい気持ちばかりが先走ってしまった……。
遅れて確認したリュシーが、何事もなかったかのように平然としてくれていたのがまだ救いだった。いや、もしかしたら本当に聞こえなかったのかもしれない。だとしたらその方が
耳まで真っ赤にしながら説明を終えたジークは、しばしそのまま俯いてしまった。
けれども、せっかくここまで話したのならばと、何とか自分を奮い立たせる。
「ちなみに……カヤ先生はどう思われます?」
視線を上げ、思い切って訊いてみると、カップを傾けていたカヤが「そっか、そうだった」と思い出すように独りごちた。