* * *
カヤに箒を渡されてから、ひと月が過ぎていた。
しかしながら、近いうちに、時間の問題といわれたわりに、いまだに柄はきれいなままだ。
それに落ち込む一方で、ジークのアンリへの夜這いは続いていた。
いまだ本人はそれに気付かないまま……。
「……いい天気ですね」
昨夜もアンリの
恒例ともなっている、習練のあとのティータイムでのことだった。
「箒のこと、気にしてる?」
カヤが気遣うように訊ねてみると、ジークは頭上を仰いだまま小さく瞬いた。
「あ、はい……それもあるんですけど」
空から下ろした視線が、どこか所在なげに揺れる。
それが改めてカヤを捕らえた時、リュシーがハーブティーを持って現われた。
「あ、ありがとう」
カヤがリュシーの入れるハーブティーをリクエストしていたからだ。
リュシーはポットやカップの載ったトレイをテーブルに下ろし、手慣れた所作で二人分のハーブティーを用意する。家からは少々距離があったが、茶器が魔法を帯びているため中身は全く冷めていない。
「すみません、ありがとうございます」
目の前に置かれたカップを見下ろして、ジークもペコリと頭を下げる。
それから数拍黙り込み、意を決したように口を開いた。
「最近、その……ちょっと考えていることがあって」
「うん? なになに。俺でいいなら、何でも言ってみて」
「すみません……こんな話、誰に言っていいのか分からなくて」
そのわりにまたしても言い淀むジークは、僅かな逡巡の末、自分を落ち着かせるようにもハーブティーをひと口飲んだ。
(……こんな話って、どんな話だよ)
リュシーはその後ろ――
そこでカヤもカップに口を付けた。美味しい、と素直に顔を綻ばせ、そうして何でもないみたいにジークに先を促した。
「いいよいいよ、ほんと何でも言ってよ。何でも聞くよ」
「はい……えっと……」
ジークはカップをソーサーに戻すと、記憶を辿るようにぽつりぽつりと話し始めた。
「最近、俺……身体の調子はいいはずなのに……」
「あぁ、それはいいことだなぁ」
「はい……なんですけど、そのわりに……全くないんです」
「ん……? ないって、何が?」
「その……………せ……よ……が」
「んん? ごめん、よく聞こえなくて」
「だから………あの、……せ……ぃよ……」
「え?」
「だ、だから……っ…………せ、……性欲がっ………ないんです……っ」
結果、間もなく彼の口から飛び出したのは、あまりに思いがけない言葉だった。
それを耳にしたリュシーが、その背後で思い切り噴きそうになったのは言うまでもない。