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呼ばれたから05

 ジークは幾分浅くなった呼吸を繰り返しながら、アンリの顔を隠していた上掛けに手をかけた。


「――いい度胸だな」


 ジークはびくりと動きを止めた。不意打ちのように空気を震わせたのはアンリの声だった。


「……!」


 アンリが指先を小さく動かすと、たちまちジークの腰紐がしゅるりと解けた。

 かと思うと、それはジークの腕へと巻き付いて、両方を一纏めに絡め取ってしまう。身を退く暇もないまま、次には背後に引っ張られ、気がついたときには身体ごとベッドに縫い止められていた。


「飲み合わせの問題か……それとも」


 抑制剤を飲むときに少しこぼしていたからか?


 アンリが呟きながら身体を起こす。

 見下ろしたジークは唖然としながらも、思いのほか落ち着いているように見えた。

 それどころか、数拍後には潤んだ瞳をゆっくりと瞬かせ、嬉しいみたいに微笑みかけてくる。


「……夢の中とは、こういう意味ではないのだがな」


 ジークが正気でないことを察したアンリは、呆れたように溜息をつくと、


「まぁいい。私もちょうどその時期だ」


 まるで他人事のように独りごち、悠然とジークの上へと影を落とした。



 *  *  *


 既にヒートへの耐性を持つアンリは、定期的にやってくるそれにも特に動じることはない。かと言ってその衝動性欲がゼロになるわけではないので、場合によっては――制御コントロールできる状態にもかかわらず――好きに発散させることもあった。


 ……まぁ、アンリのそんな行動は発情期に限ったものでもないので、はたから見る分には違いなんてあってないようなものだったが。


「……これ以上ないくらいに下手だな」 

「ん……ぅっ……」

「もっと深くくわえ込め。お前から仕掛けてきたんだろう」

「ぐ……っ! んっ、んんぅ……っ」


 両手首を戒められたまま、ジークはアンリの下腹部に舌を這わせていた。

 言われた通りに大きく口を開き、反り返るそれを喉奥まで迎え入れようとするものの、気分と衝動だけではなかなか思うようにいかない。少しでも舌の根に触れると反射的に嘔吐えずいてしまい、どうしても途中で吐き出してしまうのだ。


 それでも高揚感は消えなかった。そんなふうに言われても気持ちは沈まないし、それどころか、よけいに身体は熱を帯びて、いっそう喜ぶみたいに腰の奥が疼いてくる。張り詰めた自身からは早くもとろりと蜜がこぼれ、アンリの寝具にいくつもの染みを作っていた。


「は……、ぁっ……んんっ」


 胸の前で祈るように揃えた手が、指が、アンリのそれへと再び触れる。

 咳き込みながらも熱い口内にそれを飲み込んでいくと、溢れる唾液を塗りつけるようにしながら何とか頭を上下させた。苦しげに歪められた目元から止めどなく涙がこぼれても、ジークはしつこく食い下がる。


 もしかしたら無意識にその先を見据えているのかもしれない。そうしなければ、本当に欲しいものは手に入らないと――。


「そのまま喉を締めろ」

「……っ! んうっ……――!」


 堪えかねたように、アンリの手がジークの頭を押さえ込む。

 そのまま髪を掴むようにして揺さぶられると、ほどなくしてちかちかと眼前に星が散った。息苦しさに勝手に喉が狭まり、そのつもりもなくアンリを締め付けてしまう。するとそれに呼応するように、ジークの下腹部もびくびくと震えた。


「ん、ぅ……っ!」


 次の瞬間、喉の奥へと飛沫がかかる。頭をぐっと押さえられたまま、最奥を突くように残滓まで全て注ぎ込まれ――やがて引き抜かれるのに合わせて、ジークの喉がごくんと上下した。


「…………おいし」


 ジークはあどけない仕草で唇を舐める。

 そのくせいっそう強請るような眼差しで、艶然とアンリの顔を見上げた。


 いつのまにか、ジークの熱も弾け、シーツの上はどろどろになっていた。

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