ジークは幾分浅くなった呼吸を繰り返しながら、アンリの顔を隠していた上掛けに手をかけた。
「――いい度胸だな」
ジークはびくりと動きを止めた。不意打ちのように空気を震わせたのはアンリの声だった。
「……!」
アンリが指先を小さく動かすと、たちまちジークの腰紐がしゅるりと解けた。
かと思うと、それはジークの腕へと巻き付いて、両方を一纏めに絡め取ってしまう。身を退く暇もないまま、次には背後に引っ張られ、気がついたときには身体ごとベッドに縫い止められていた。
「飲み合わせの問題か……それとも」
抑制剤を飲むときに少しこぼしていたからか?
アンリが呟きながら身体を起こす。
見下ろしたジークは唖然としながらも、思いのほか落ち着いているように見えた。
それどころか、数拍後には潤んだ瞳をゆっくりと瞬かせ、嬉しいみたいに微笑みかけてくる。
「……夢の中とは、こういう意味ではないのだがな」
ジークが正気でないことを察したアンリは、呆れたように溜息をつくと、
「まぁいい。私もちょうどその時期だ」
まるで他人事のように独りごち、悠然とジークの上へと影を落とした。
* * *
既にヒートへの耐性を持つアンリは、定期的にやってくるそれにも特に動じることはない。かと言って
……まぁ、アンリのそんな行動は発情期に限ったものでもないので、
「……これ以上ないくらいに下手だな」
「ん……ぅっ……」
「もっと深くくわえ込め。お前から仕掛けてきたんだろう」
「ぐ……っ! んっ、んんぅ……っ」
両手首を戒められたまま、ジークはアンリの下腹部に舌を這わせていた。
言われた通りに大きく口を開き、反り返るそれを喉奥まで迎え入れようとするものの、気分と衝動だけではなかなか思うようにいかない。少しでも舌の根に触れると反射的に
それでも高揚感は消えなかった。そんなふうに言われても気持ちは沈まないし、それどころか、よけいに身体は熱を帯びて、いっそう喜ぶみたいに腰の奥が疼いてくる。張り詰めた自身からは早くもとろりと蜜がこぼれ、アンリの寝具にいくつもの染みを作っていた。
「は……、ぁっ……んんっ」
胸の前で祈るように揃えた手が、指が、アンリのそれへと再び触れる。
咳き込みながらも熱い口内にそれを飲み込んでいくと、溢れる唾液を塗りつけるようにしながら何とか頭を上下させた。苦しげに歪められた目元から止めどなく涙がこぼれても、ジークはしつこく食い下がる。
もしかしたら無意識にその先を見据えているのかもしれない。そうしなければ、本当に欲しいものは手に入らないと――。
「そのまま喉を締めろ」
「……っ! んうっ……――!」
堪えかねたように、アンリの手がジークの頭を押さえ込む。
そのまま髪を掴むようにして揺さぶられると、ほどなくしてちかちかと眼前に星が散った。息苦しさに勝手に喉が狭まり、そのつもりもなくアンリを締め付けてしまう。するとそれに呼応するように、ジークの下腹部もびくびくと震えた。
「ん、ぅ……っ!」
次の瞬間、喉の奥へと飛沫がかかる。頭をぐっと押さえられたまま、最奥を突くように残滓まで全て注ぎ込まれ――やがて引き抜かれるのに合わせて、ジークの喉がごくんと上下した。
「…………おいし」
ジークはあどけない仕草で唇を舐める。
そのくせいっそう強請るような眼差しで、艶然とアンリの顔を見上げた。
いつのまにか、ジークの熱も弾け、シーツの上はどろどろになっていた。