「誰がきれいにしてやったと思ってんだ?」
「………………」
制約のせいで吐精はできないが、濡れないわけじゃない。
ロイのそれだって、どれだけ奥深くに出されたところで、栓が抜ければこぼれてくるだろう。……量が量だったこともあるし。
だけどその違和感が一切残っていない。衣服が張り付くような不快感もない。
(まさか……)
ロイが手ずから掻き出した?
そして汚れていた肌は全て……。
アンリにはいつもことが終われば放置されていた。
だからジークの世話といい、事後の処理には慣れていたのだ。
それを……それを。
いや、確かにロイは狼だけど……。
リュシーは振り払うように頭を振った。
(…………無理)
それ以上は認めたくなくて、想像すらしたくなくて、話を変えた。
「……そろそろ下ろしてください。鈴の音が近い」
「え?」
(
正常な意識が残っているかはわからないが、もし残っていたらどう思われるかわからない。思うだけならまだしも、彼のことだから純粋に何があったんですかと心配してくる可能性だってある。そんな面倒なことになるのはごめんだ。
だからそうならないためにも、まだ人影が見えないうちに何とか自力で――。
「ほんとに大丈夫なのか」
「いいから下ろしてください」
リュシーがさっさと足を下ろそうとしても、ロイはなかなかその腕を緩めようとしない。
「早く……!」
声を潜めながらも急かすように言うと、ようやく渋々ながらもロイは身を屈めてくれた。
リュシーの両足が地面に着く。
と、そこに聞こえて来たのは、
「――懲りない人ですね」
そんな滑らかで耳障りの良い――と同時に、妙に威圧感のある声だった。
* *
ジークはぐるぐると目が回るのを感じていた。
ギルベルトに触れられると熱が増し、ラファエルに近づかれると少し落ち着く。
そのたびにフェロモンの香りが濃くなったり薄くなったりする。
ギルベルトに引き上げられそうになればリン! と大きく鈴が鳴り、その手をラファエルが外してくれれば、へなへなと地面へとへたり込み、リリン……と不安げに鈴の音が揺れる。
それでも食い下がるようにギルベルトはジークを地面に押し倒し、ラファエルには「てめぇは黙ってカヤんとこでも行っとけよ!」と一方的に吐き捨てた。
そうしながら、ジークの身体を覆っていたマントを力任せに左右に開く。すると一気にジークの匂いが舞い上がり――けれども、
「――懲りない人ですね」
「あだだだだだ!!」
次の瞬間、ラファエルはギルベルトの尖った耳を思いきり引っ張り――それこそピアスごと引きちぎらんばかりに――思わず身体を反らせたギルベルトを、そのまま手際よく地面へと転がしてしまった。
「……!」
背中を打ち付けたギルベルトが息を詰まらせる。その横で、身体を起こしたジークはびくりと身を竦ませた。
「だいたい、前も言いましたけど……」
ラファエルはあくまでも表面上は笑顔だった。
けれども、どう見ても怒っている。それが分かるからよけいに恐ろしく感じてしまう。
「その品のないピアスは外せって言ったでしょう」
「だから何でだよ。こっちこそ前にも言ったけどどんなのつけようが俺の勝手だろ!」
「……僕が気に入らないからですよ」
「はぁ?!」
「そんな、どこの馬の骨とも知れない相手からもらったもの……」
「いやお前何言ってんの? 俺様が自分のガールフレンドからもらった物をどうしようが