「つーか、なんかこの前よりちょっと薄いな……?」
「!」
遅れて目を戻すと、顔を覗き込むように身を乗り出してきたギルベルトと目が合った。
近っ……近い近い!
ジークは逃げるように後ろに身を退いた。リンと小さく鈴が鳴る。
ギルベルトは舐めるようにジークの全身を眺めながら、更に距離を詰めた。
そんなギルベルトの背後で、ラファエルの呟く声がする。
「……それはよろしく……?」
ジークはちらりとそちらを一瞥したが、それ以上ラファエルに動く様子はなかった。彼はただ口許に手を当て、ゆらりとギルベルトに視線を転じただけだ。
(な、何……? 何?)
ジークはいまいち状況が把握できず、とにかく手の中の小瓶を握りしめ、じりじりと後退る。鈴の
ジークがリュシーを待つのに選び、座っていた場所は大きな木の根元だった。行く手を阻んだのは、どっかりと佇むその太い木の幹だった。
「わっ……ちょ、待っ――」
逃げ場をなくしたジークの顔に、ギルベルトの手が伸びてくる。その指が頬を撫で、顎を捕らえる。振りほどこうにも、何故だか射竦められたように動けない。申し訳程度に、微かに鈴が震えるだけだった。
上向かされて絡め取るように視線を合わせられると、再びざわりと、ジークの
* * *
リンリンと不規則に鈴が鳴っている。それがひときわ大きく跳ねた時、波間を漂うようだったリュシーの意識が一気に浮上した。
「お。起きたか」
目を開けると、間近にロイの顔があった。
ロイは木の根元に座り込み、リュシーの身体を横抱きするように支えたまま、憔悴したその面持ちをまっすぐ見下ろしていた。
「話が違うから焦ったぜ」
「話……?」
「いや、出さなくても普通に飛ぶんじゃねぇかって」
その言葉に、一気に記憶が鮮明になる。
それはあんたが色々と規格外だったからだよ……!
言ってやりたかったけれど、負け惜しみのようにも思えてリュシーは忌々しげに口を噤んだ。
「……!」
そこにまた鈴の音が響く。
はっとしたリュシーは、急くように上体を起こした。
頭がぶつかりそうになるのをロイが避けると、そのまま立ち上が――ろうとして、ふらりとよろめいてしまう。
「おっと。大丈夫か」
ロイがその身をすぐに支える。
リュシーは小さく舌打ちしながらも、それを振りほどくことはできなかった。
足腰に上手く力が入らない。
どうにもならないというほどではないけれど、いつも通りに動けるまでには時間がかかりそうだ。
(あぁ、もう……っ)
顔を上げたリュシーは、ロイの手を借りつつも辺りを見渡した。
「どれくらい寝てました?」
「ほんの数分だよ」
「そうですか」
完全に眠りに落ちてしまうと、やがて身体は鳥の姿に戻ってしまう。せめてそうなる前に目覚められたのは良かったけれど……。
ふらつきながらも歩き出そうとするリュシーに、ロイが声をかける。
「おい、どこに」
「坊ちゃんのところですよ!」
リュシーは吐き捨てるように答えた。
鈴の音はずっと聞こえている。
大丈夫、まだちゃんと近くにいる。
ただ……。
――なんでそんなにうるさいくらいリンリン鳴ってんだよ! 鈴!!
ジークの身に何か起こっているのだろうことは容易に想像がついた。
「あー、何かずっと鳴ってるもんな。時々あの時みたいな匂いもするし……」
「あの時みたいな匂い?」