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15.霧の中で05

「つーか、なんかこの前よりちょっと薄いな……?」

「!」


 遅れて目を戻すと、顔を覗き込むように身を乗り出してきたギルベルトと目が合った。


 近っ……近い近い!


 ジークは逃げるように後ろに身を退いた。リンと小さく鈴が鳴る。

 ギルベルトは舐めるようにジークの全身を眺めながら、更に距離を詰めた。

 そんなギルベルトの背後で、ラファエルの呟く声がする。


「……それはよろしく……?」


 ジークはちらりとそちらを一瞥したが、それ以上ラファエルに動く様子はなかった。彼はただ口許に手を当て、ゆらりとギルベルトに視線を転じただけだ。


(な、何……? 何?)


 ジークはいまいち状況が把握できず、とにかく手の中の小瓶を握りしめ、じりじりと後退る。鈴のが揺れる。その背中がドンと行き当たる。リン! と高い音が響いた。


 ジークがリュシーを待つのに選び、座っていた場所は大きな木の根元だった。行く手を阻んだのは、どっかりと佇むその太い木の幹だった。


「わっ……ちょ、待っ――」


 逃げ場をなくしたジークの顔に、ギルベルトの手が伸びてくる。その指が頬を撫で、顎を捕らえる。振りほどこうにも、何故だか射竦められたように動けない。申し訳程度に、微かに鈴が震えるだけだった。


 上向かされて絡め取るように視線を合わせられると、再びざわりと、ジークの胎内なかで細波が立ったような気がした。



 *  *  *


 リンリンと不規則に鈴が鳴っている。それがひときわ大きく跳ねた時、波間を漂うようだったリュシーの意識が一気に浮上した。


「お。起きたか」


 目を開けると、間近にロイの顔があった。

 ロイは木の根元に座り込み、リュシーの身体を横抱きするように支えたまま、憔悴したその面持ちをまっすぐ見下ろしていた。


「話が違うから焦ったぜ」

「話……?」

「いや、出さなくても普通に飛ぶんじゃねぇかって」


 その言葉に、一気に記憶が鮮明になる。


 それはあんたが色々と規格外だったからだよ……!


 言ってやりたかったけれど、負け惜しみのようにも思えてリュシーは忌々しげに口を噤んだ。


「……!」


 そこにまた鈴の音が響く。

 はっとしたリュシーは、急くように上体を起こした。

 頭がぶつかりそうになるのをロイが避けると、そのまま立ち上が――ろうとして、ふらりとよろめいてしまう。


「おっと。大丈夫か」


 ロイがその身をすぐに支える。

 リュシーは小さく舌打ちしながらも、それを振りほどくことはできなかった。


 足腰に上手く力が入らない。

 どうにもならないというほどではないけれど、いつも通りに動けるまでには時間がかかりそうだ。


(あぁ、もう……っ)


 顔を上げたリュシーは、ロイの手を借りつつも辺りを見渡した。


「どれくらい寝てました?」

「ほんの数分だよ」

「そうですか」


 完全に眠りに落ちてしまうと、やがて身体は鳥の姿に戻ってしまう。せめてそうなる前に目覚められたのは良かったけれど……。


 ふらつきながらも歩き出そうとするリュシーに、ロイが声をかける。


「おい、どこに」

「坊ちゃんのところですよ!」


 リュシーは吐き捨てるように答えた。


 鈴の音はずっと聞こえている。

 大丈夫、まだちゃんと近くにいる。


 ただ……。


 ――なんでそんなにうるさいくらいリンリン鳴ってんだよ! 鈴!!


 ジークの身に何か起こっているのだろうことは容易に想像がついた。


「あー、何かずっと鳴ってるもんな。時々あの時みたいな匂いもするし……」

「あの時みたいな匂い?」

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