そういえば、アンリからの説明にあった〝通常ならひと月後〟はもう過ぎている。
だけど薬は? 薬が効いていれば、発情はしないのでは……。
いや、でもその薬は、今朝から変わっている。
ということは、変更後の薬ではだめだったということなのか?
だとしたら、そもそもなぜアンリは薬を変えたばかりでジークに外出許可を出したのか。
あの
……わからない。わからないけど、多分これは……覚えのあるこの兆候は――。
「? どうしました?」
「あ、いえ……えっと」
ジークは努めて答えながらも、じわじわと上昇していく体温に気を取られ、先の言葉が出てこない。
そうしているうち、ふわりと甘い香りが漂い始める。
「……大丈夫ですか?」
「は、はい……」
辛うじて頷きはするものの、一方で鼓動はどんどん早くなり、全身の肌という肌が火照っていく。双眸には早くも生理的な涙が滲み、それを隠すように俯くと、ジークは胸元で両手を握り込みながら、再度ふるりと首を振った。
「行って、ください……大丈夫ですので」
下腹部に血が集まってくる。布地の下で、その嵩が増していく。
それだけならまだしも、ジークの身体は既に欲しがり始めていた。
誰でもいい。誰でもいいから、
そんなこと考えたくもないのに、腰が勝手に揺らめいてしまいそうになる。
「お願いします……っ。もう、行ってください……!」
ジークから立ち上る香りが強くなる。
けれども、幸いというべきか、ラファエルはそれに気づいていない。
天使という種族がら、淫魔の発情にあてられにくいという特性があるのだ。
「……でも……」
とはいえ、見るからに様子のおかしくなったジークを前に、ラファエルもなかなかその場を去れない。
ラファエルはしばしの逡巡の末、ジークの肩にそっと触れた。
「っ!」
びくり、とジークの身体が強ばる。それに合わせて、首元の鈴も小さく跳ねた。
そんな過剰な反応に、驚いたラファエルも思わずその顔を覗き込んでしまう。
「本当に、大丈――、!」
言われるが早いか、ジークは持っていた小瓶が落ちるのも構わず腕を伸ばした。かと思えば、近まったラファエルの胸倉を掴んでその身を引き寄せ、次には噛みつくようにキスをする。
「は……んっ、んん……っ」
ラファエルの唇に強請るみたいに舌を這わせる。開けて欲しいと歯列をなぞる。
けれども、それにラファエルが応えてくれることはなく、
「待っ……待って下さい。ほら、しっかりして」
それどころか、すぐさま冷静に肩を押し返され、ひたひたとその頬を軽くたたかれた。
「あ……あ、お、俺……っ。す、すみません!」
ラファエルの優しい声とその仕草に、束の間我に返ったジークは、ますます顔を紅潮させながらも何とか謝罪する。
呼吸はいまだ忙しないままだが、相手が
……と、思った矢先、
「……?」
どこからともなく、鼻歌のような音が聞こえてきた。
その微妙にずれた旋律は次第に鮮明になり、ラファエルとジークは釣られるように頭上に目を遣った。
「げっ!! なんでお前が!」
次いで降ってきたのは、そんな品のない声だった。