「ぼっちゃんあれ、迷子だろ。向こうからはお前のこと分からなくなってる。一緒に来たんだよな?」
種族柄、鼻が利くせいだろうか。それともここに来る途中、一方的にその姿を見かけたのか。ともあれ、ロイはリュシーに会う前から、ジークが近くにいることに気付いていたらしい。
「……」
沈黙が落ちると、風の音や葉音に混じって、微かな鈴の音が聞こえてくる。
「少なくとも、あれが聞こえてる間は大丈夫だろ」
「……言っときますけど、これ脅しですからね」
「脅しじゃねぇよ。お願いだろ」
「相手が断れないのを知ってて言うのは脅しと同じです」
先刻、霧の奥へと消えた影のことを思いながら、リュシーは淡々と答えた。
『要はふられたわけ』
そう自虐気味に笑ったロイは、持っていた瓶に蓋をして――くれたかと思うと、それをそのまま呼び出した配下の狼に預けてしまった。人質ならぬ
ことが終わればすぐにでも返してくれると言ってはいたけれど、よく考えたらそれで「お前が気に入ってるから」なんてどの口が言うのか……。
* * *
「なぁ、これお前……今まで誰に抱かれた?」
一方の大きな手のひらが、半端に下衣を下ろした後ろへと触れてくる。リュシーは何も答えなかった。
答えなかったからと言って、ロイの手は止まらない。
一切待つことなく唾液に濡れた指にあわいを開かれ、間もなく探り当てた窪みを窺うように躙られる。それがゆっくり中へと潜り込み、更にその本数が増やされるまでに時間はそうかからなかった。
傍ら、ロイは再度訊ねた。
「なぁ。誰だよ、お前をこんなふうにしたの」
「………っ」
指をくわえ込まされたそこから、ぐちぐちとあられもない音がする。リュシーは軽く唇を噛んだ。
ロイの指はリュシーの身体が知っているものより随分太く、隘路は拒むように強く収縮する。そのくせ入口は柔軟に綻んで、誘うようにそれを受け入れようとするのだ。
「ぃ……っ、こ、答える義務は、ない、でしょ……」
「義務はねぇけど……知りてぇんだよ。誰がお前の身体をここまで躾けたのか……」
「
やるならさっさと終わらせろ。特にあちこち触れなくていいし、服も脱がさなくていい。
そう先に言っておいたのに、ロイはその条件の一部を早々に反故にする。
襟はきっちりと詰められたまま、下も必要最低限に肌蹴られただけだったが、そうしてあらわになった〝前〟には手を這わせてきたのだ。
「触……っ、や、やめ……!」
リュシーは後ろ手に幹へと手をつき、自分の身体を支えていた。
そうしていなければ足元へと崩れ落ちてしまいそうで――。
けれども、ロイは一向に手を
「何で触っちゃだめなんだよ」
やり方はどうあれ、ロイはリュシーを気に入っていると言った。一緒に楽しもうと言った。
要はリュシーに触れたいのだ。本当ならもっと、耳元から首筋、胸、脇腹も足の付け根も全て、丁寧に愛撫したいと思っていた。
リュシーはぎゅっと目を閉じたまま、ロイの肩口に顔を伏せるようにして呟いた。
「……せないからだよ」
「え?」
問い返したロイの呼気が、リュシーの耳を掠める。
リュシーはぽつりと答えた。