目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
契約魔法のせいで04

「ぼっちゃんあれ、迷子だろ。向こうからはお前のこと分からなくなってる。一緒に来たんだよな?」


 種族柄、鼻が利くせいだろうか。それともここに来る途中、一方的にその姿を見かけたのか。ともあれ、ロイはリュシーに会う前から、ジークが近くにいることに気付いていたらしい。


「……」


 沈黙が落ちると、風の音や葉音に混じって、微かな鈴の音が聞こえてくる。


「少なくとも、あれが聞こえてる間は大丈夫だろ」

「……言っときますけど、これ脅しですからね」

「脅しじゃねぇよ。お願いだろ」

「相手が断れないのを知ってて言うのは脅しと同じです」


 先刻、霧の奥へと消えた影のことを思いながら、リュシーは淡々と答えた。


『要はふられたわけ』


 そう自虐気味に笑ったロイは、持っていた瓶に蓋をして――くれたかと思うと、それをそのまま呼び出した配下の狼に預けてしまった。人質ならぬ物質ものじちだ。

 ことが終わればすぐにでも返してくれると言ってはいたけれど、よく考えたらそれで「お前が気に入ってるから」なんてどの口が言うのか……。



 *  *  *


「なぁ、これお前……今まで誰に抱かれた?」


 一方の大きな手のひらが、半端に下衣を下ろした後ろへと触れてくる。リュシーは何も答えなかった。


 答えなかったからと言って、ロイの手は止まらない。


 一切待つことなく唾液に濡れた指にあわいを開かれ、間もなく探り当てた窪みを窺うように躙られる。それがゆっくり中へと潜り込み、更にその本数が増やされるまでに時間はそうかからなかった。


 傍ら、ロイは再度訊ねた。


「なぁ。誰だよ、お前をこんなふうにしたの」

「………っ」


 指をくわえ込まされたそこから、ぐちぐちとあられもない音がする。リュシーは軽く唇を噛んだ。


 ロイの指はリュシーの身体が知っているものより随分太く、隘路は拒むように強く収縮する。そのくせ入口は柔軟に綻んで、誘うようにそれを受け入れようとするのだ。


「ぃ……っ、こ、答える義務は、ない、でしょ……」

「義務はねぇけど……知りてぇんだよ。誰がお前の身体をここまで躾けたのか……」


しつ……そんなの、今更知ってどうす――……っあ、や……! 俺はいい、俺はいいからっ……!」


 やるならさっさと終わらせろ。特にあちこち触れなくていいし、服も脱がさなくていい。

 そう先に言っておいたのに、ロイはその条件の一部を早々に反故にする。

 襟はきっちりと詰められたまま、下も必要最低限に肌蹴られただけだったが、そうしてあらわになった〝前〟には手を這わせてきたのだ。


「触……っ、や、やめ……!」


 リュシーは後ろ手に幹へと手をつき、自分の身体を支えていた。

 そうしていなければ足元へと崩れ落ちてしまいそうで――。


 けれども、ロイは一向に手を退かず、堪えかねたリュシーは片手でその腕を掴んだ。案の定、危うく傾き欠けた身体を、ロイが首筋を食むようにして支え直す。


「何で触っちゃだめなんだよ」


 やり方はどうあれ、ロイはリュシーを気に入っていると言った。一緒に楽しもうと言った。

 要はリュシーに触れたいのだ。本当ならもっと、耳元から首筋、胸、脇腹も足の付け根も全て、丁寧に愛撫したいと思っていた。


 リュシーはぎゅっと目を閉じたまま、ロイの肩口に顔を伏せるようにして呟いた。


「……せないからだよ」

「え?」


 問い返したロイの呼気が、リュシーの耳を掠める。

 リュシーはぽつりと答えた。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?