* * *
(信……じられない……っ)
もう何度同じ言葉を繰り返しただろう。
自分の身に起こっていることにまるで現実味がない。ここに来てまだ数日しか経っていないのに、理解し難いことが起こりすぎている。
突然同僚に襲われかけただけでもわけが分からないのに、初日に意識のないまま初対面のアンリに抱かれ(たらしいと聞き)、それを受け止める間もなく、
しかもその後処理を、一度目はリュシーが、二度目はリュシーの指導のもと自分ですることに……なんて、
(は、ずかしすぎる……)
リュシーに案内されるまま、昨日と同じリビングダイニングで何とか朝食を済ませたジークは、結局堪えきれず天板に突っ伏してしまう。
ゴン、という音がして、額が少々痛んだけれど、そんなことを気にする余裕はない。
(って言うか、特異体質って……何……?)
断片的に覚えているアンリの説明といい、リュシーの言葉といい、一応何度も思い返してはみたけれど、それ以上のことは何もわからなかった。
どうにか整理しようにも、増えるのは点ばかりで全く線にならないのだ。
「どうぞ」
抑揚の乏しい声に続いて、カチャリ、と傍で音がする。
「ありがとうございます……」
顔だけでなく、新たに打ち付けた
リラックス効果があるのだろうか。自然とほっと息が漏れて、肩からも少し力が抜ける。昨日とはまた違うハーブティだった。
「ご主……先生ももう少ししたら来られますので」
先生。アンリのことだ。
リュシーのその言葉に、ジークの身体が僅かに強張る。
「あの……俺、大丈夫なんでしょうか」
「何がですか?」
「き、昨日俺……アンリ……先生に触れたとたん、何か変な感じに……」
カップに落としていた視線をおずおずと上向ける。傍らに立ったままのリュシーの顔を見遣ると、
「ああ……大丈夫だと思いますよ。……今は」
「今は?」
「はい、今は」
彼は少しだけ考えるような間を挟みながらも、きわめてあっさり頷いた。
そんなリュシーの反応に、何となくそれ以上は問い返せなくなり、ジークは辛うじて「そう、ですか……」と答えたものの、あとは黙ってカップを傾けるしかなかった。
* * *
テーブルの上には、カップと揃いのポットと、籠に入れられた焼き菓子が置かれている。アンリが座るのだろう場所には、ジークのと同じカップとソーサーが置かれていた。
「あ、そうだ、リュシーさん」
「……なんですか」
思い出したように声を掛けると、リュシーはジークを見ることもなく淡々と答えた。
外へと一部張り出したリビング――サンルームのようになったそこには、いくつもの鉢植えの植物が置かれている。リュシーはその手入れをしているところだった。
「アンリ先生の、あの作業……仕事部屋? の……」
「アトリエですか?」
「あ、アトリエ……に、置かれてる鳥かご、なんですけど」
目の前にある手のひら大の葉を、一枚一枚柔らかな手巾で拭いていたリュシーの手が、一瞬止まった。けれども、その動作はすぐに再開されて、
「鳥かごが?」
「あ、えっと……昨日、中に何かいたような気がしたんですけど……さっき見たら空っぽだったので……。もしかしたら、俺の見間違いだったのかなって」
先刻、リュシーに連れられ、アトリエを通り抜けた時も、自然と