ここまで待ってやっただけ有り難いと思え――。
独りごちるような声が、遅れてジークの耳に届く。届きはしたが、理解はできなかった。
「ぃあ……っ、――あぁあっ!」
あまりの衝撃に息が詰まり――直後、知らしめるように最奥を深く抉られ、あられもない声が迸る。
「やっ……ぁ! あっ、待……っあぁ!」
待って。止まって。嫌だ。嘘だ。ありえない。
悲鳴じみた嬌声が止まらない。こんなはしたない声を出しているのが自分だなんて信じられない。
許容しがたい事実に思考がかき乱される。やがて考えることを放棄するように、意識が明滅し始めた。
けれども、それが完全に暗転することはない。アンリがジークの腰を押さえ、
隘路を割り開くように抽挿されるたび、ジークの頭がクッションの上で小さく跳ねる。堪えきれない高い声が止めどなく漏れて、こみ上げた涙にたちまち視界が滲んだ。
戦慄くジークの身体から、いっそう濃い香りが立ち上っていた。
「あ! あぁっ、やめ……待、いぁ……っ」
揺さぶられるのに合わせて、座面とクッションの端に意図せず胸の先が擦られ、戯れのように弾かれる。先刻ギルベルトに付けられた小さな傷が微かに痛む。だがそれすら今は快楽へと変換されるようだった。
同じように腹部とカウチに挟まれている屹立からも断続的に飛沫が飛び散り、気を抜くと今にも吐精してしまいそうに下腹部が引き上がる。
腰の奥へと集まる熱が急激に温度を上げて、眼窩でちかちかと光が瞬いた。閉じることのできない唇の隙間から、唾液が細い線を描いてこぼれ落ちる。
「あ、アンリさ……待、っ――!」
それなりの準備と、血の作用のおかげだろうか。幸いにも痛みはほとんどなかったが、それでも慣れない圧迫感と違和感は消えることなく、ジークの思考を苛んでくる。頭では苦しいと感じているのだ。
なのに身体がそれを享受する。それが
――怖い。
「いや、だっ……放し……っ、あぁっ、あ……っ」
ジークは拒絶を示して頭を振った。
何とかカウチの上を這い上ろうとしながら、
「どこに行くつもりだ」
その後頭部にアンリが手を伸ばす。そんな言葉と仕草に、ジークは思わずびくりと全身を強張らせた。
それを宥めるようにアンリの指先が頭を撫でて、髪を梳く。
けれども、次の瞬間、
「――んぅ!」
不意打ちのように顔を強くクッションに押さえつけられ、息が詰まった。
「お前が言ったんだろう。満足させてほしいと」
背中に胸板を重ねるようにしながら、耳の後ろで囁かれる。体勢に必然と繫がりが深くなり、ひく、と引き絞られたみたいに喉が鳴った。
アンリの手が後頭部からうなじへ流れる。その隙に、酸素を求めてどうにか顔を横向けた。
「はっ……ふ、あぁっ、も、やめ……っ」
アンリのもう一方の手が、ジークの腰を掴んで固定する。ジークの声など当然のように聞き流されて――どころか、身体をずり上がらないよういっそう取り押さえられ、より深いところまで一気に突き上げられた。
「ぃ――っあぁあ!」
悲鳴じみた嬌声と共に、ジークの先端から白濁が迸る。全身を割るように貫かれ、躙るように圧迫された場所から、びりびりとした鮮烈な痺れが走った。
脳が蕩けるような余韻の中、虚ろな眼差しが捉えたのは窓際に佇む鳥籠だった。扉のないその中に入れられるのは誰なんだろう。〝誰〟だなんて不自然な思考にも気付かないほど、ジークの頭は茫洋としていた。そのつもりもなく、ぽろりぽろりと溢れる涙に、ますます目の前の景色がぼやけていく。
焦点の合わなくなった双眸に、止まり木で眠る青い鳥の姿が映る。映ったものの、認識はできない。ましてやそれがリュシーであるなどとは――夢にも思わなかった。
「や……ぁ、あ……ぁ……」
まるで水の中にいるみたいな、不明瞭な視界はいまだ規則的に揺れている。アンリが動きを止めないからだ。
ドロドロになったジークの屹立から、白みがかった残滓と共にさらりとした液体があふれ出る。
閉じることすらできなくなった唇から、うわごとめいた吐息が止めどなく漏れていた。
「あぁっ、ぁ、んっ……や、ぁああっ!」
アンリがジークの両腕を取り、後ろに引くようにしながらいっそう腰を密着させる。
最奥をこじ開けるように何度も穿たれ、大きく上体が仰け反った。突き出た顎先から汗が飛び散り、全身の肌がざわりと粟立つ。
次の瞬間、隘路に熱い飛沫が注ぎ込まれる。と同時に、ジークも再び爆ぜていた。
――これが本当に治療なのだろうか。
頭の片隅に浮かんだ疑問が、浮かぶ端から霞んで消えた。