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意識がある中で04



 *  *  *


「あ、えっ……待……!」


 アンリの手が屹立の根本へと降りていく。そのまま際を辿るようにしながら更に下方へと下り、引き上がった袋を撫でる傍ら、擽るように会陰をなぞる。

 張り詰めた先端からとろりとまた蜜がこぼれた。


「お前は一度この治療を受けている」

「え……?」

「そうでなければ、いまごろ狂っていただろうな」


「え……狂……?」


 ジークは窺うようにアンリの服を掴む。

 まるでどういうことか見当もつかずに、ただ過ぎる困惑に濡れた双眸を揺らす。


「もしくは、その辺の獣でも襲っていたか……」


「え…………。な、え……?」


 俺、が……?

 け、獣? に、その……挿入する、ということ……か?


 アンリを見上げる瞳が大きく見開かれる。

 けれども、次にはそれもすぐに眇められた。


「ぃんっ……!」


 会陰をくっと押し上げられると、びくりと跳ねるように腰が浮く。

 いっそう溢れ出た雫がアンリの手を濡らし、谷間たにあいへと伝い落ちていく。


 受け入れがたいのに、反して受け入れたいみたいな自身の反応に頭がついていかない。

 そこに先よりも熱を煽るような囁きが落とされる。


「もっとよく考えろ……その身体が、本当に欲しているものは何なのか」

「っ、ひぁ!」


 アンリの指先が、不意打ちのように、その先にある窪みに触れた。微かな水音がして、確かめるように躙られたそこから、びり、と鮮烈な痺れが走る。

 独りでに胎内内側がきゅんと疼いて、焦れったいような甘さが迫り上がってくる。


「待っ……待って、そこ……そんな、だめです……っ」

「……それが答えか?」


「や……めて、くださ……、待っ……!」


 ジークの言葉など、何の抑止力にもならない。

 ジークがどう答えようと、片手間のように埋め込まれていく指先は、蠱惑的にひくつきながらも、いまだ慎ましやかなそのつぼみを開いていくのだ。


「わ、あ、あぁっ……アンリさ……っ、アンリさん……!」


 ジークは怖いように唇を戦慄かせる。縋るように名を呼びながら、アンリの服を掴んでいた手に、なけなしの力を込める。


 何でそんなところを触られているのかわからない。

 何でそんなところに指を挿れられているのかわからない。


 そのくせ嬉しいみたいに高揚していく自分の感覚が、一番理解できなかった。


「んぁっ……あ、やぁあっ……!」


 アンリの長い指が、蠕動する内壁を引きずるようにしながら、根本までしっかりと埋め込まれる。

 ジークの背筋が艶かしくしなり、濡れた嬌声が部屋に響いた。


 血の作用があるからなのか、そこに痛みらしい痛みはない。間もなくアンリが指を増やしても、圧迫感は増すものの、それを苦痛だとは感じなかった。

 それどころか、すでに頭の片隅では〝もっと〟と思い始めている。中途半端とは言え、発情したままの身体が、意に反してアンリの愛撫を享受する。


「や、ぁ……なんか、おか、し……っ。あ、離……!」

「素直になってみろ」


 当然かもしれないが、正気じゃない時とは態度がまるで違う。いささか呆れたような心地で、アンリは僅かに目を細めた。

 だがその一方で、昨夜のように血の欲求に従うばかりの姿よりも面白いと感じ始めてもいる。


「や……な、なんで……っ、あ、あぁっ……や、待っ……待――!」


 内側から触れるという場所を探り当て、何の前置きもなく指で挟むように圧迫する。

 するとたちまちジークの背が弓なりに反れて、触れられてもいない屹立から白濁した液体が迸った。


 勢いよく散ったそれが、ジークの腹部にぱたぱたと落ちる。アンリの黒いローブにも染みができた。

 アンリの服を掴んでいたジークの手が、するりと座面に滑り落ちる。


「う、嘘……。そ……んなとこ、で、俺……」


 ジークはうっすらと肌を染めたまま、反して蒼白となるほど呆然としていた。

 弱々しくも、心底信じられないと首を振るジークの中から、アンリは無言で指を抜いた。


「ふ……っぁ……」


 ジークの口から上擦った吐息が漏れる。抜き去られた指を追うように、腰が勝手に揺らめいた。

 ほっとすべきところなのに、もどかしい喪失感が否めない。例えるなら、自分の中にもう一人、別の自分がいるようで、そんな感覚矛盾に頭がいっそう混乱する。


「出したい、というだけなら、これで終わりだ」


 うつろなジークの双眸を、アンリの冷ややかな瞳が見下ろしていた。

 ジークの視界に遅れて輪郭が戻る。努めて視軸をアンリに合わせると、ごくりと勝手に喉が鳴った。


「お……終わり……?」

「お前の望みはここまでだっただろう」


「俺……の、のぞ……」


 喉が渇いているせいだろうか。思うように声が出ない。


「私は優しいからな。お前の言葉にはちゃんと従ってやる。……これで満足したのだろう?」


 水を向けられ、ジークは一瞬押し黙る。

 確かに「出したい」と言ったのは自分だ。だってそれ以外にないと思ったから。出してしまえば、全てが普通に解消されると思っていた。


 だけど、実際には何一つ満たされたようには思えなかった。どころか、その欲求はより強くなった気がする。

 出した直後だと言うのに、頭は一向に冴えていかない。身体から熱が引かない。萎えることなく張り詰めたままのそれが、ますます嵩を増してそそり立つ。

 反動のように渇望しているそれを、その答えを、ジークはまだ掴めなかった。掴めなかったが、


「満、足……。――じゃ、ない場合は、どうしたら……?」


 ジークにはもうそう答えるしかなかった。

 その縋るような声音は、ひときわ甘く誘うような色を帯びていた。

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