「あ、あの……っ」
すでに乱れていた衣服を左右に開かれ、下半身を覆っていた衣服まで手早く寛げられる。
躊躇うように声を上げても、誰も助けてはくれない。構わず下着にまで指をかけられ、ジークはとっさに両腕で顔を隠した。
どろどろに濡れて張り付いていたそれが無くなると、晒された素肌が一気に粟立つ。
ジークが何とか正気を保っていられたのは、たしかにその薬のせいだった。
アンリの作った
発情を抑え、意識を正常化し、のち、そのまま深い眠りに落とす――。
早い話が、そうやって強制的に鎮静化し、眠らせている間に、その波をやり過ごすというものだった。
その間、夢の中で擬似的にでも欲求が満たされれば、それだけに終わることもある。
だが、多くの場合、そう上手くはいかず、次に来る発情が過度なものになると言う報告も多かった。
それでもパートナーさえいれば問題ないからと、単に発情期をコントロールする目的で買い求める客も少なくないのだが――。
「途中で覚醒した場合のデータはなかったからな。ちょうどいい。……それに」
「……?」
(飲んだわりに、症状がほとんど収まっていない……)
どころか、そう時間も経っていないのに、より強くなっている気がするのも興味深い。
そう、アンリがリュシーに渡していた
「え、アンリさ……? えっ……あ、えぇ……っ」
ジークは思わず顔を覆っていた腕を退けた。
慌てて向けた視線の先で、アンリの手が脇腹から下へと下りていく――その気配を感じたからだ。
汗ばんだ肌の上を辿りながら、やがてその長い指先が触れたのは、先刻からまるで萎えることなく、天を向いていたジークの――。
「ア、アンリさん……! え、待……っ」
ジークが身体を起こそうとするのを、アンリの他方の手が阻む。もとよりろくに力の入らないジークの身体を制するのは容易かった。
ジークの屹立に手を添えながら、アンリはジークの顔を悠然と見下ろす。
わけもわからないまま、ジークはただ羞恥に身を竦め、アンリの落とした影の中で、その絡め取るような眼差しを見詰め返すことしかできない。
「いいか」
アンリはおもむろに顔を近づける。
すると条件反射のように、ジークの唇が僅かに浮いた。できた隙間から熱っぽい呼気が漏れる。
けれども、アンリはそれが触れ合う寸前で動きを止めて、口付けの代わりのように囁きを落とした。
「これは治療だ」
その言葉は、呪文のようにジークを束縛する。
低く平板なその声は、そのくせひどく艶っぽくも聞こえ、怖いくらいにジークの官能を刺激する。
ジークは束の間瞠目し、それから堪えるように目を閉じた。
「このまま放置されたくはないだろう……?」
アンリの吐息が耳にかかる。かと思うと、耳殻に沿って舌が這う。頭の中に直接注ぎ込まれるような息づかいと水音が、妙に生々しく鼓膜を震わせる。
視界を閉ざしたばかりに、いっそう全てが際立って、ジークは知らずごくりと喉を鳴らした。
「そ……っ、それは……」
「どうして欲しいか言ってみろ」
ジークはおずおずと目を開ける。水膜に滲んだ視界の端に、さらりと流れる
微かに戦慄く唇から、言葉はすぐには出てこない。出てこないものの、身体が欲しているものは嫌でも察しがついていた。
とにかく今は、この性的欲求を満たしたい――。
どうしてそんなことになっているのかは分からないし、できれば認めたくもないけれど、自身の反応から見てもそれは紛れもない事実だった。
ジークは半ば無意識に片手を下肢へと伸ばし、自身に触れたままのアンリの手の上に、自らのそれをそっと重ねた。
「……だ、出したい」
「違うな」
けれども、意を決して告げた言葉は冗談みたいに一蹴された。
ジークは信じがたいように目を瞠り、「そんなはずない」と小さく首を振った。