『08.あてられたのは』でラファエルに乱入された前後のギルベルト視点のお話です。
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快晴の空の下、陽を避けるように浅くフードをかぶったまま気ままに空を飛行する。
陽の光はそう得意ではないけれど、純血のやつらに比べれば耐性がある。
そんな中、久々に近くを通ったからと、たまにはアンリの媚薬でも買って帰ろうか――なんて悪戯に考えていたところ、
「……!」
不意に吹き抜けていった強い風に、俺は弾かれたように顔を上げた。
「何だ、このにおい……」
かと思うと、すぐさま鼻先をそちらへと向けるようにして、風上から漂ってくるそれを嗅ぎ分ける。
「アンリの家……からか……?」
真っ黒い羽をひときわ大きくはためかせ、誘われるようにつきとめた先は、やはりアンリの家だった。
アンリの家の二階の部屋――壊れたみたいに半端に開いていた外開きの窓。そこから妙に甘ったるい匂いが漏れ出ている。
俺は引き寄せられるよう部屋の中へ身を滑り込ませると、癖のように羽を消した。
「――こいつか?」
ベッドに近づきながら、被っていたフードを背中に落とす。
最初に感じた時よりはわずかに和らいだ気もするけれど、それでもなお纏わり付くような匂いに促されるよう、僅かに犬歯が伸びた。
ベッドの上には、うっすらと額に汗を浮かせたまま眠る、一人の男の姿があった。
俺よりは白いけれど、ほどよく焼けた健康的な色合いの肌。青みがかった黒い髪。
顔の造作は中の上? くらいに見えるものの、薄付きながらもしっかりと筋肉を纏った身体は予想以上に美味そうに見えた。
実際、ぺろりと首筋を舐めてみたら、それだけで唾液の量が増した。
癖になるような甘さと、うっとりするような独特な香り。
……こんなの、絶対美味いに決まっている。
もっと欲しい。
思うが早いか、俺は男の顎を軽く持ち上げ、当然のように口付けていた。
なのに――。
「……っ! ぅえっ」
次の瞬間、俺は弾かれたように身を退いた。
嘔吐きそうになりながら舌をだし、傍らにぺっぺと唾を吐く。
「まぁ――っず! なにこれ、薬の味?!」
マジで涙目になるほどまずい。まずいっていうか、生理的に受け付けない味っていうか……。
とにかく、もう二度と味わいたくないって思うくらいの味がしたのだ。
だからといって、男の身体から立ち上るような匂いは消えない。
俺はそれに煽られるまま、既に兆しかけている自身を意識すると、
「キスがダメでも、やることはやれるからな」
改めて口元に笑みを貼り付けながら、男の上へとのしかかった。
* *
――はずだった。
「なんで、この俺様がっ……お前なんかと――んん……っ……!」
やたらと甘い匂いのする目の前の男に、今にも突っ込もうかと言うところ――実際、先っちょは入ってたはず――で、突然はじけ飛んできた窓枠には正直びびった。心臓が口から飛び出るかと思った。
しかも、そうした相手は俺がもっとも嫌いな
不本意ながらも微妙に動揺していたら、どさくさに紛れて俺様の立派な大剣をお粗末とか抜かしてくるし、ばりっとメシから引っぺがされかと思うと、あまつさえ、胸倉を掴まれたままキスまでされてしまった。
次には何故か
(こいつ……マジか?!)
両手を頭上に縫い止められて、文句を言おうにも再び口を塞がれて、滑り込んできた舌に自分のそれを絡め取られる。
さっきまで触れていた男のせいか、身体に燻ったままだった熱はそれだけで一気に温度を上げた。
けれども、いつもならその程度でここまで力は抜けない。ここまで視界は滲まない。――ここまで顕著に反応はしない。
「……っん、んん……!」
外気にさらされ、萎えかけていた下腹部が、たちまち張り詰め、反り返っていた。
俺の下から逃げ出したばかりの黒髪の男が、こちらを見ていることにも気が回らないほど、頭の中が茫洋としていた。
もちろん、その直後に彼が部屋から出て行ったことにも気付かない。気付かないというか、もうそんなことに頓着する余裕はなくなっていた。
「キスだけでこんなになるなんて……はしたないですね」
ラファエルの手が痛いくらいに勃ち上がっている俺のそれに触れる。
その刹那、まるで電気が走ったみたいに俺の腰が大きく跳ねて、
「――あ、あぁあっ」
堪える間もなく上げてしまった声と共に、びゅる、と先端から白濁した液体が飛び散っていた。