「あ……あれっ……」
けれども次の瞬間、ギルベルトは焦ったような表情を浮かべた。
いつのまにか、目先の隘路を穿つだけの硬さもなくなっていることに気付く。さっきまであれほど張り詰めていたそれなのに、ラファエルの視線を意識するたび、ますます勢いをなくしていくような気がしていっそう動転する。
「も、離し……っ」
呆然とするギルベルトの様子に、ジークは「今なら」とばかりに足掻こうとした。そのさまを一瞥したラファエルが、ベッドの傍へと静かに踏み出した。
「よ、寄るんじゃねぇよ! クソ天使!」
「……相変わらず下品な口ですね」
噛み付くように喚くギルベルトの襟元に、ラファエルはおもむろに手を伸ばす。言葉の割に、ギルベルトは怖いように身を竦ませているようでもあった。
「そんなに寂しいなら、僕が相手をしてあげますよ」
ラファエルはギルベルトの胸倉を掴むと、その身を引き上げるようにしながら囁いた。
そして、懲りずに何か言おうとする口を塞ぐように、唇を重ねる。
「なんで、この俺様がっ……お前なんかと――んん……っ……!」
「――…っ」
ジークはそんな二人の光景に息を呑んだ。
奪うように口づけながら、ラファエルはギルベルトの身体をジークの上から引き剥がす。
強いられていた苦しい体勢から開放されると、ややしてジークは我に返った。我に返ると、転がるようにしてベッドから下りる。
(……!)
ギシ、とベッドのきしむ音がして、振り返るとそこに押し倒されていたのはギルベルトだった。
両手首を頭上に縫い留められ、呼吸も許さないとばかりに口内を貪られて、ギルベルトは少しずつ双眸を潤ませていく。
一度は萎えかけたギルベルトのそれが、再び腹につくほど反り返っているのが目に入った。
(あ……あんな)
ジークは無意識に息を詰めた。人様のそんなところなど、見てはいけないと思うのに、そう思うほど目が離せなくなってしまう。
しかも、相手はどう見ても同性だ。ジークの知人にもそういう指向の者がいないわけではなかったが、それでもやはり大半は異性愛者で、実際、彼には
にもかかわらず、気がつくと身体の奥底に、言い知れない欲求が生じ始めていた。知らずごくりと喉が鳴る。目端にじわりと熱が灯る。
勝手に心拍数が上がり、更には下腹部に妙な違和感まで覚えてきて――。
「……っ!」
ジークは努めて顔を背けると、焦ったように頭を振った。そんな自分があまりに信じ難くて――。
(なんか……身体がおかしい)
二人の姿を極力視界に入れないように注意しながら、逃げるようにベッドから距離を取る。
ひどい有様の着衣を最低限整えつつ、傍らに落ちていたストールを拾い上げると、それを片手で掻き抱くようにして、アトリエへと続く扉に急ぐ。
「……あ」
ドアノブを回し、転び出るように
窓際に置かれた鳥籠の前に、見慣れない誰かが立っている。それは朱銀の長髪に黒いローブの男――アンリだった。