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05.昨日の記憶01

「ん……」

 寝返りを打つと、固めのベッドが微かに軋む音がした。

 意識は夢現を行ったり来たりで、まぶたはまだ重く閉じられたままだ。

「おはようございます」

 そこにふと落ちてきたのは、どこか鳥が囀るかのような不思議な印象の声だった。

 続いて、ベッドサイドのテーブルに、ガラスの水差しとグラスを置く音がする。

「目が覚めたなら、これ。一口でもいいから飲んで下さいね」

 続けてかけられた声に、伏せられている睫毛まつげがぴくりと震える。ジークの意識が、ゆっくりと浮上した。

 軽く眉間にしわを寄せながら目を開けると、傍に立っていた青い髪の青年が、気遣うようににこりと微笑みかけてくる。

 まるで見覚えのない相手だったが、不思議と警戒心は抱かなかった。

「気分はどうですか? まだ身体が重いとかあります?」

 身体を起こしたジークの肩に、紺色のストールを掛け、青年はジークの額に手を当てた。

 その瞬間、何かがフラッシュバックしたような気がして、ジークはびくりと身を竦ませた。



   ✛✛✛



 昨夜――アンリがジークに触れた時、ジークの意識は完全に消失していた。

 けれども、そんな意識がない状態でも、まるで別の何かに乗っ取られたように身体は反応したのだ。

 うわ言と言うにはひどく艶めかしい吐息と嬌声が漏れて、それはすぐさま眠りに落ちてしまったリュシーの記憶にすら残るほどだった。

 アンリははぎ取ったジークの服を床に落とすと、一方でひらりと片手を翻す。するとその手の中に、薄桃色の液体の入った小さな小瓶が現れた。

 指先で瓶の蓋を開け、ゆっくりと傾ける。しっとりと湿り気を帯びたジークの身体にそれを垂らせば、見た目よりも粘度のあるそれがゆっくりと広がっていく。

「んんっ……ぁ、あ……っ」

 たったそれだけの刺激にも、ジークの身体は小刻みに震えてしまう。

 ジークは堪らないように自らの手を下腹部に伸ばし、痛々しいほどに張り詰めたそれに指を絡めた。

 纏い付く桃色の液体の影響もあるのか、その手が軽く擦るだけで、とろとろとあふれ出る液体に白みが混じる。かと思うと、少量ながらもすぐさま飛沫が飛び散った。

 その痴態にアンリは目を細め、

「そろそろ気付け……」

 何度出しても同じだということに。

 言外に匂わせ、空になった瓶を床に転がすと、その手でジークの片脚を立たせ、大きく開かせた。

 あらわになったそこが、外気に晒されひくりと収縮する。

 粘液を塗り込むようにしながら、谷間を辿る指が、間もなく触れた窪みをゆるゆると撫でる。ジークの腰が、強請るように揺れた。

「んぁ……っ、あ、ぁ、もっと……っ」

 もっとちゃんと触れて。もっと奥まで触れて。

 早く。早く。もうこれ以上、我慢できないから――。

 そう縋るようにアンリの服を強く握り、唇を戦慄かせるさまは、およそ普段のジークからは想像もできないほど情欲的なものだった。

(……)

 茫洋とした意識のなか、ジークの瞼がうっすらと開く。けれども、その瞳には何も映っていない。ただその縁からぼろぼろと涙がこぼれ落ちるだけで、その焦点はどこにも合っていなかった。

 アンリは観察するようにその姿態を眺めながら、ひとまず請われるままに指先を中へと埋めた。

 ジークの性感が昂ぶるほど、どんどん色濃くなっていく血の作用匂いのせいもあるのだろうか。気がつけばアンリも幾分高揚している。

 それでも、ジークの同僚や隻眼の狼などに比べれば影響はきわめて些少だった。

 基本的にそういう感覚には疎いはずのリュシーですら、何か感じるところがあったというのに、これほどの距離にいてアンリの頭は冴えている。

 アンリはジークの顔を見下ろしながら、確かめるように内側なかを探った。

「ああっ、あ、も……っ、はや、く……っ」

 内壁を擦るたび、ジークの背筋がびくびくと跳ねる。

 焦らすように動きを止めれば、泣き言めいた嬌声と共に、すぐさまジークの手が伸びてくる。

 しかもその指先は、アンリの指もろともに自分の中へと入り込もうと動き――。

「――…」

 させるままにしていたアンリは、それが少しずつ内へと潜り込んでいくのを見て、大きく息を吐いた。

「……躾がなってないな」

 アンリは低く呟くなり、ずるりと指を引き抜いた。当然のように、ジークの手も剥がし取る。

「や……っな、なんでっ……」

「お前に文句を言う権利はない。いいから黙って私に従え」

 言うなり、アンリは自らの衣服を脱ぎ捨てる。

 朱銀色の刺繍をひらめかせ、黒い長衣が床に落ちると、あらわになったしなやかな体躯が有無を言わさず覆い被さった。

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