「ん……」
寝返りを打つと、固めのベッドが微かに軋む音がした。
意識は夢現を行ったり来たりで、まぶたはまだ重く閉じられたままだ。
「おはようございます」
そこにふと落ちてきたのは、どこか鳥が囀るかのような不思議な印象の声だった。
続いて、ベッドサイドのテーブルに、ガラスの水差しとグラスを置く音がする。
「目が覚めたなら、
続けてかけられた声に、伏せられている
軽く眉間にしわを寄せながら目を開けると、傍に立っていた青い髪の青年が、気遣うようににこりと微笑みかけてくる。
まるで見覚えのない相手だったが、不思議と警戒心は抱かなかった。
「気分はどうですか? まだ身体が重いとかあります?」
身体を起こしたジークの肩に、紺色のストールを掛け、青年はジークの額に手を当てた。
その瞬間、何かがフラッシュバックしたような気がして、ジークはびくりと身を竦ませた。
✛✛✛
昨夜――アンリがジークに触れた時、ジークの意識は完全に消失していた。
けれども、そんな意識がない状態でも、まるで別の何かに乗っ取られたように身体は反応したのだ。
うわ言と言うにはひどく艶めかしい吐息と嬌声が漏れて、それはすぐさま眠りに落ちてしまったリュシーの記憶にすら残るほどだった。
アンリははぎ取ったジークの服を床に落とすと、一方でひらりと片手を翻す。するとその手の中に、薄桃色の液体の入った小さな小瓶が現れた。
指先で瓶の蓋を開け、ゆっくりと傾ける。しっとりと湿り気を帯びたジークの身体にそれを垂らせば、見た目よりも粘度のあるそれがゆっくりと広がっていく。
「んんっ……ぁ、あ……っ」
たったそれだけの刺激にも、ジークの身体は小刻みに震えてしまう。
ジークは堪らないように自らの手を下腹部に伸ばし、痛々しいほどに張り詰めたそれに指を絡めた。
纏い付く桃色の液体の影響もあるのか、その手が軽く擦るだけで、とろとろとあふれ出る液体に白みが混じる。かと思うと、少量ながらもすぐさま飛沫が飛び散った。
その痴態にアンリは目を細め、
「そろそろ気付け……」
何度出しても同じだということに。
言外に匂わせ、空になった瓶を床に転がすと、その手でジークの片脚を立たせ、大きく開かせた。
あらわになったそこが、外気に晒されひくりと収縮する。
粘液を塗り込むようにしながら、谷間を辿る指が、間もなく触れた窪みをゆるゆると撫でる。ジークの腰が、強請るように揺れた。
「んぁ……っ、あ、ぁ、もっと……っ」
もっとちゃんと触れて。もっと奥まで触れて。
早く。早く。もうこれ以上、我慢できないから――。
そう縋るようにアンリの服を強く握り、唇を戦慄かせるさまは、およそ普段のジークからは想像もできないほど情欲的なものだった。
(……)
茫洋とした意識のなか、ジークの瞼がうっすらと開く。けれども、その瞳には何も映っていない。ただその縁からぼろぼろと涙がこぼれ落ちるだけで、その焦点はどこにも合っていなかった。
アンリは観察するようにその姿態を眺めながら、ひとまず請われるままに指先を中へと埋めた。
ジークの性感が昂ぶるほど、どんどん色濃くなっていく
それでも、ジークの同僚や隻眼の狼などに比べれば影響はきわめて些少だった。
基本的にそういう感覚には疎いはずのリュシーですら、何か感じるところがあったというのに、これほどの距離にいてアンリの頭は冴えている。
アンリはジークの顔を見下ろしながら、確かめるように
「ああっ、あ、も……っ、はや、く……っ」
内壁を擦るたび、ジークの背筋がびくびくと跳ねる。
焦らすように動きを止めれば、泣き言めいた嬌声と共に、すぐさまジークの手が伸びてくる。
しかもその指先は、アンリの指もろともに自分の中へと入り込もうと動き――。
「――…」
させるままにしていたアンリは、それが少しずつ内へと潜り込んでいくのを見て、大きく息を吐いた。
「……躾がなってないな」
アンリは低く呟くなり、ずるりと指を引き抜いた。当然のように、ジークの手も剥がし取る。
「や……っな、なんでっ……」
「お前に文句を言う権利はない。いいから黙って私に従え」
言うなり、アンリは自らの衣服を脱ぎ捨てる。
朱銀色の刺繍をひらめかせ、黒い長衣が床に落ちると、あらわになったしなやかな体躯が有無を言わさず覆い被さった。