フラスコの中に花を咲かせるように。
それが、夏休みの宿題だった。
土や肥料どころか、水さえ使ってはいけない。フラスコの底に転がっている、小さな黒い種だけを、発芽さえ、根を張らせて、最後は綺麗な花を咲かせないといけない。
どんな魔法を使ってもいいですからね。
薬草学の教師である佐々木先生の、まぶしいほどの笑顔が脳裏に浮かぶ。
これで評価の三十%を占めるというのだから、頭を抱えたのは私だけではないはずだ。
埃を被った魔法の教科書はもちろん、ネットで注文した薬草学の本なんかも参考にしながら、日夜、種が発芽するように魔法をかけている。けれど、種は相変わらず転がったままで、発芽させる素振りすら見せない。
夏休みも折り返し地点が近づいている。
他のこともやらないといけないのにさ。
まぁ、ブツクサ言って、フラスコに魔法をかけている時間は、嫌いではないけどね。